WEB VISION OKAYAMA

連載記事杉山慎策の経営学考察

国富論を読む10~労働の賃金~

 土地が地主により占有されていないで、資本の蓄積もない原始的状態における労働の自然な報酬は労働によって得られる生産物である。この状態が続けば、分業により徐々に生産性が向上し、労働の対価は上昇する。

 時代が進み、土地所有が生まれ、資本を蓄積した資本家が生まれると多くの場合労働の報酬である賃金は労働者と雇い主の契約により決まる。しかし、この両者の利害は相反する。労働者は団結してより高い報酬を求めて資本家と交渉する。蓄積のない労働者は過激な行動に走り勝ちであり、通常労働争議の戦いの結末は資本家に有利な形で終焉する。

 労働の報酬である賃金は労働者が再生産される必要があり、労働者自身が生きていくだけのレベルより高い賃金が必要となる。子供の致死率が50%に近い当時、再生産に必要な2人の子供を育てるには4人の子供を必要とする。このレベルの出生率が維持できないと結局労働者が減少することになり、これは必然的に賃金の高騰を生み出す。令和の現在少子高齢化に苦しむ日本経済は急激な労働人口の減少状況にあり、最低賃金は国が定めるまでもなく必然的に高騰する。

 スミスの生きていた時代、独立したばかりのアメリカよりイギリスの賃金は高かった。しかし、アメリカは急成長しており、人口も急速に増えている。収入と資本が増え、人口が増えている状態にあり、アメリカの国富は増えている。国富の増大に伴い、賃金も国富の増加に比例して高まる。逆に、ベンガルのようなイギリスの植民地では労働者の賃金が低く、餓死者も出ているようなケースもある。

会員申し込みはこちらから

本誌:2024年9月2日号 15ページ

PAGETOP