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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

東京1泊ひやひや旅行

 現在、東京上野にある東京都美術館で、印象派およびポスト印象派のコレクションで名高いロンドンのコートールド美術館展が開催中です。シスレー、マネ、ルノワール、ドガ、セザンヌ、ゴーガン等々おなじみの画家のしかも超名作ばかりが日本にやってきているのですから見に行かないわけにはいきません。幸い全日空がいつもより少ないマイルで無料搭乗できるキャンペーンをやっていたので、気がかりなことがあるのにも拘わらず予約を入れました。

 気がかりとはお腹に慢性的な痛みがあることです。先ごろ病院でエコー検査を受けたところ「特に異常は見つかりません、様子見でいいでしょう」とのことでした。上京の日程を決めてから心なしか腹痛の度合いが増してきたような気がします。しかも以前は痛い個所が曖昧だったのに今はお腹の左下に強い痛みがあることがはっきりしてきました。
ああ、それなのにバカな私は病院ではなく東京に来てしまった!何とかなるだろう、東京は未開の地ではない、名だたる病院もいたるところにある、保険証も持ってきた。実際、東京に来てみると雨模様ながら楽しい。文句なく世界一機能性と情緒がマッチした大都会。住んでいたのは50年前の学生時代たった4年間だけなのに、いつの間にか自分の中の元風景みたいな街になっている……。

 お腹の痛みは潮が満ち引きするように強くなったり弱まったりしつつも、旅の目的のコートールド展は心行くまで堪能できました。問題は帰りの飛行機です。機内で腹痛がぶり返し我慢できなくなっても空の上を飛んでいるからには「気分が悪い、降ろしてくれ」というわけにはいきません。テレビドラマでよくあるドックターコール、「お客様の中にお医者様はおられませんか?」のシーンが目に浮かびます。まったく旅行も命がけです。

 思えば昔の人は旅に出ることはある意味、死を覚悟することでした。むしろ西行や芭蕉のような大詩人は客死することに積極的な意味と美学を見出し、そこに人生の完成形を夢見たあとがうかがえます。しかしながら私のような凡人は脇腹の痛みさえ重病のサインのように思え、不安がつのり、無事岡山に帰れたら場合によっては夜間でも病院にすっ飛んでいこう、と臆病風丸出しです。

本誌:2019年12月9・16日号 20ページ

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