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連載記事人材育成のタネ65

会社・組織のビジョンは、どうして浸透しないのか

  • 竹本幸史氏

 ビジョンが組織に浸透しないといった話をときどき耳にします。ビジョンが浸透しない原因は、どこにあるのでしょうか。組織の中でそれをせき止めたり、勝手にゆがめて伝えたりする人がいるからでしょうか。そうではありません。ビジョンが浸透しないケースのほとんどは、伝え方に問題があるか、ビジョンそのものに問題があるか、社内コミュニケーションに問題があるかなのです。

 企業のビジョンとは、その企業が将来、どのような姿になりたいのかを表したものです。その表現方法に決まり事はないため、通常は言葉で示されます。しかし、ビジョンが言葉で表されたとき、ほとんどの場合、どこかで聞いたようなありきたりな表現になってしまいます。斬新な言葉を使えばよいというわけではないので、それは仕方のないことですが、社員からすればどこに目新しさがあるのか、他社のビジョンとどこが違うのかがよく分かりません。

 例えば、「豊かな社会づくりに貢献できる会社を目指す」とか、「業界でオンリーワンの企業になる」とかいった言葉の意味は、日本語を知っていれば分かりますが、それだけでビジョンの本当の意味は理解できません。言葉で示される「情報」だけではなく、なぜそのビジョンを目指すのかという「意図」が分からなければ、ビジョンの意味が理解できないからです。

 さすがにビジョンを表した言葉だけを提示して、社員に意味を理解させようとする会社はありません。なぜそのビジョンなのかという理由が説明されるはずです。けれど、その説明の仕方が誤解を生むケースが多いようです。例えば、「企業の社会的責任が重視される時代になった。社会に貢献できない会社は生き残れない。だから、社会に貢献する会社を目指す」、「市場が成熟し、競争が激しくなっているため、圧倒的な差別化要因が必要だ。だから、オンリーワン企業になりたい」などと説明されるかもしれません。経営環境がこう変わるからこのビジョンを目指すという説明です。
 
 そのような説明が無益というわけではありませんが、社員がそれを聞いてもあまり新鮮さを感じないでしょう。そのような環境変化については、多かれ少なかれ分かっているからです。そのため、そこに「気づき」はありません。ビジョンを言葉にした情報を論理的に説明したとしても、やはり常識的なものになってしまうのです。その結果、ビジョンは社員の頭に残ることなく忘れ去られていきます。

 なぜそのビジョンを目指すのかという「意図」は、社員に推論させることが必要です。推論とは、「経営トップがそのような価値観を大切にしているのであれば、そのビジョンを目指すことに納得ができる」という気づきを社員に得させることです。トップがどのようなレンズを通して会社の未来を見ているかに社員自身が気づくことによって、はじめてビジョンに対する深い理解が可能になります。

 ビジョンを理解するということは、経営者の価値観のレンズを通した世界観を理解することです。それは「なるほど、そういうことか」といった感覚です。その気づきがアイデアを引き出すのです。「このビジョンを理解せよ」と押し付けても、その理解が得られることは決してありません。

 ビジョンが組織に浸透するには、そのための「場」が必要です。その場とは、トップがビジョンに込めた意図を語り、社員がその意図を読み取るための場です。そうした双方向のコミュニケーションの場がなければ、そもそもビジョンの裏側にある価値観は伝わらないのです。「豊かな社会づくりに貢献できる会社」をビジョンとする社長と、社員が話す機会があったとします。そこで次のような対話が行われれば、ビジョンの意図はより鮮明に伝わるでしょう。

社員:「豊かな社会づくりに貢献できる会社を社長が目指しているのは、そのような立派な会社にしたいということですか」
社長:「立派な会社にしたいのはもちろんだが、慈善事業をしたいわけではない。社会に貢献することによって、大きな仕事ができると思うからだ」
社員:「広く社会の役に立てる会社にしようということですか」
社長:「その通りだ。社会に貢献することによってわが社に対する信頼が生まれる。その信頼関係が何より重要だ。世の中の至るところで、わが社に対する信頼が生み出されるような会社にしたい」

 信頼関係を何よりも大切にするというトップの価値観を理解することによって、「豊かな社会づくりに貢献できる会社」を目指すことに納得し、理解が得られます。それによって、トップの価値観のレンズが社員にも共有されるようになるのです。

●竹本幸史● 元㈱リクルート岡山支社長。現在は人材育成を主としたコンサルティング業務の㈱SWITCH WORKSを立ち上げ奔走。またリーダー養成スクール「法人会員制・定額制ビジネススクール」を開講中

本誌:2019年GW特別号 13ページ

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