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連載記事杉山慎策の経営学考察

「偉大な改革者の偉大な改革に経営学は役立っているか」1

 筆者は長年偉大と言われている「経営学の理論」、例えば、ポーターの「ダイヤモンド理論」や「ファイブフォース分析」などを学生に教えてきた。経営学は一般的にハーバード大学にMBA(経営学修士)が開設された1908年頃にスタートしたと言われる。この年にT型フォードが発売され、世界最大の自動車メーカーになったゼネラルモーターズ(GM) も誕生している。

 ケヴィン・ケリーの名著『<インターネットの次>に来るもの』の中で指摘されているように、1905年のマジソン・スクエア・ガーデンには「車」は1台もなく「馬車」と「馬」ばかりであり、20年後の1925年に同じ場所から「馬車」と「馬」は消え去り「車」だけになった。丁度このような「変化の時代」に「経営学」は誕生した。

 学生たちに教えた理論は卒業後社会人として働く中で役に立っていると信じているが、本当に役に立っているかどうかを検証する方法はないか長年考えてきた。あれこれ考えた結果、過去の「偉大と言われる改革」に現代の「経営学の偉大な理論」を当て嵌めたらどうかという結論に至った。古今人は多くの改革を成し遂げてきた。その成果を私たちは今日享受している。江戸時代以前の織豊時代にも例えば織田信長の実施した「楽市楽座」がある。これは今日の「経済特区」に相当する。一般的に江戸以前の改革は文献が少なく分析が難しい。そこで、江戸時代の下記の10大改革において私たちが学んできた経営学の所謂「偉大な理論」が「偉大な改革」に実際に「役立っている」かどうか検証してみたい。

 岡山の誇る山田方谷による備中松山藩の財政改革も当然十大改革の一つに含まれる。他には次のような改革を取り上げてみたいと考えている。資料の都合で、一部変更があるかもしれないが、お許し頂きたい。

1.山田方谷(備中松山藩)
2.上杉鷹山(米沢藩)
3.島津斉彬(薩摩藩)
4.鍋島閑叟(肥前藩)
5.佐竹義和(久保田藩)
6.徳川斉昭(水戸藩)
7.村田清風(長州藩)
8.恩田民親(松代藩)
9.斎藤拙堂(津藩)

 これらの改革については多くの著書が書かれているが、経営学の視点からの分析は驚くほど少ない。どちらかと言うと改革者の哲学や改革のスローガンについて解説した著書が多い。典型的な例として、上杉鷹山の「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」の歌がある。山田方谷は「至誠惻怛」とか「利は義の和」などを残している。これらは今日の経営学で言う「ヴァリュー」つまり「行動規範」に相当する。

 筆者は政治改革そのものにはそれほど関心はない。多くの場合経済が社会を変えると考えている。21世紀の今日において中国の国家資本主義による改革は目覚ましいものがあるが、しかし、長期的に持続性のある改革ではないと考える。だからと言って自由な市場経済が永続的かというと必ずしもそうではない。それどころか自由市場経済は曲がり角に来ている。その証左として、アメリカでは、トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」という非常に内向きな政策を推進している。欧州では、イギリスのEU離脱を巡り英国やEUのみならず世界的な混乱が引き起こされている。イギリスの「EU離脱」(BREXIT)により、嘗ての「日の沈むことのない大英帝国」が復活することも恐らくないであろうし、トランプ大統領の推し進めるような「アメリカ・ファースト」の政策で、第二次世界大戦後にアメリカが享受していた「世界の唯一の超大国」が復活することもないであろう。

 経営学は非常に現実的な学問であり、ある地域や組織の抱えている課題を解決するための学問である。政治的・情緒的な側面を極力削り取り、経営学の視点から見た改革の成果を明確にすると同時に、その改革の中で「経営学の偉大な理論」がどのように「活かされているか」を検証してみたい。恐らくそこから得られる知見は今日過疎化に悩む多くの「地方の創生」にも役に立つのではと考える。次回山田方谷の改革から分析をスタートしたい。

本誌:2019年GW特別号 19ページ

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