WEB VISION OKAYAMA

連載記事杉山慎策の経営学考察

行動経済学とシャープのブランド論3

 一度所有すると実際に他のものと差がない場合でも価値があると感じ自分が持っていたものを手放せなくなる効果のことを保有効果(Endowment Effect)と言う。行動経済学の一理論であるこの保有効果はマーケティングの現場で活用されている。近年小売売上に占める通販のシェアは大きく伸びている。テレビをつけると必ずテレビショッピングのコマーシャルが流れる。恐らく多くの読者は何度となくテレビショッピングを見ているに違いない。

 このテレビショッピングでは30日間の返品保証を付ける場合が多い。何故だろうか。これも私たちが持つ保有効果を期待して返品保証をつけているのである。つまり、人は一旦購入してしまうと保有効果のため、手放せなくなるという人間の心理行動に基づいたマーケティング戦略なのである。加えて、返品や返金保証を付けることで、会社の取り扱う商品の品質への自信や会社そのものへの信頼感を高めることができ、結果として顧客のリピート率を高めることができる。人は得ることよりも失うことを恐れる。

 通販業者はこのようなマーケティング戦略で多くの顧客を獲得している。売上高数百億円を超えるような通販業者は数百万人の顧客を有している。この顧客の中でロイヤルなユーザーで購入金額の高い顧客を如何に多く獲得するか、また、その顧客を維持・発展させて行くかにブランドの盛衰はかかっている。

 囲い込んだ顧客については、よく知られている「パレートの法則」がある。全体の20%の上位顧客が売上全体の80%を占めるという経験則である。経済学では上位20%の上位所得者が所得全体の80%を占めているというような形で使われる。従って、マーケティング戦略ではこの20%の顧客をどう見つけ、アプローチするかが大切になる。そこで、コトラーの言うSTPがアプローチの際の基本戦略となる。よく知られているように、STPはSegmentation、Targeting、Positioningの略である。市場を所得や年代などで区分(セグメント)し、そのどこに的を絞るのか(ターゲティング)、加えて、他社とは違うどのような市場での位置を確保するのか(ポジショニング)がこのコトラーのマーケティング理論の中核となる。

 バイロン・シャープはこのマーケティングでは当たり前と考えられているコトラーのSTP理論に反論する。彼は確かにパレートに近い現象はみられるが、それは半数を少し超えた範囲であり、顧客はもっと分散していると主張する。象徴的に彼はそれを80:20の法則ではなく、60:20の法則と定義している。大切なことはSTPやパレートの法則が全てのカテゴリー、全ての市場で正しいと鵜呑みしないことである。行動経済学的アプローチに則り、しっかり自社の商品の顧客や競争環境を調べることが重要なのである。

 シャープはこのように一つ一つの商品について、その顧客を丹念に調べ、検証し、その調査に基づいてマーケティング戦略を立案すべきであることを実証データを使用しながら説得しているのである。

 例えば、カンターのワールドパネルのデータによればボディースプレイとデオドラントのカテゴリーでも、ブランドのトップのシェアは16%、3カ月の上位20%の購入比率は42%、12カ月でみると53%となる。とてもパレートの法則の80%には届かない。

 シャープはこの購入頻度はヘビーユーザーかライトユーザーかに関わらず変化するという事実も指摘している。ということは、結局多くのライトユーザーからなるロングテイルにいる消費者をどのようにして獲得するかということしか、ブランド確立の方法はないことになる。

 シャープは安易に80:20の法則に頼るのではなく、しっかり調査をすること、加えて、
(1)ブランドの成長と維持の為の顧客獲得の重要性
(2)特に購入頻度の低いライトユーザーにリーチすることの重要性
を指摘している。

 次回はそのためのマーケティング戦略についてのシャープの考えについて述べる。

本誌:2018年10月8日号 23ページ

PAGETOP