WEB VISION OKAYAMA

連載記事

心のブリッジ(懸け橋)をかける

 10月22日に投票が行われた衆議院議員総選挙で、自民党、公明党の与党が3分の2以上の議席を確保して大勝しました。そして、この選挙の大勝を取り上げるニュースショーやワイドショーでことさらヒーローとして注目されていたのが、小泉進次郎氏です。10日の公示日から21日の選挙戦最終日までの12日間で、小泉氏は計18都道府県、55会場で演説したそうです。

 この選挙戦の期間中多くの自民党候補より、わが選挙区に応援弁士として小泉進次郎氏を迎え入れたい!という候補者同士の攻防も行われていたことでしょう。言葉で伝えるプロとして、以前から注目していた小泉進次郎氏ですが、改めてこの総選挙を終えて注目し直すことになりました。

 パフォーマンス学の第一人者、佐藤綾子氏が小泉進次郎氏の初当選の翌年に出版した「小泉進次郎の話す力」という著書によると、小泉進次郎氏はブリッジングの天才なのだそうだ。ブリッジングとは聴衆と心のブリッジ(懸け橋)をかけること。そのために、小泉氏は日本全国どの土地に応援に行っても、ご当地ネタを取り込みます。そしてそれが天才的にうまいのです。

 その土地の史実を今の情勢に見事に例えてみたり、その土地の名産物をポケットに忍ばせておいて演説途中で取り出して見せたり、その土地のお国訛りであいさつをしたり。人は、「私のために」と感じること「大切にされた」と感じることが何よりも心の琴線に触れるもの。小泉氏がこの土地に単に降り立っただけではなく、この土地に関心を持ちこの土地のことをよく知ってくれていると思うことが、彼の到着を数時間前から待ち焦がれていた聴衆には「私(私たち)は大切にされている」と感動的に映るのです。

 ある土地では、演説の冒頭に「(土地名)のみなさん~!」と呼び掛けた後、「(土地名)でアクセントはあっていますか?よかった~、正しく言えた。この土地の読み方は標準語では(土地名)というアクセントで読むけど、ご当地では(土地名)というアクセントなんですよね。ここを間違えたらいけませんよと言われて、道中練習していたんですよ。正確に言えてよかった」とまず伝えました。この発言で聴衆はあっという間に小泉進次郎氏と心の架け橋が結ばれます。

 私はこのたった一度の応援演説を大切にしています。だからしっかり準備して望んでいます。それは皆さんのことを大切に思っているからです。そんなメッセージが土地名のアクセント一つで伝わるからです。そしてあえて、準備したということを明らかにするのも、演説のオープニングに聴衆との心の架け橋を結ぶ効果を確信してのことに違いありません。

 開票速報の特番の一つに、小泉氏に密着取材をしていた番組がありました。選挙期間中の夜の8時すぎ、ある地方での応援演説を終えて、その土地の飲食店で食事を終えた小泉氏を直撃し、自動販売機の前で缶コーヒーを飲みながらキャスターと立ったまま談話する小泉氏。キャスターが「今どのような心境ですか?」と尋ねると、「1日の中で唯一この時間が次の演説について考えなくていい時間なんです。その時間にちょっとホッとしています」と答えていました。

 父親も演説の天才と呼ばれ、その血筋や環境、爽やかな風貌も人気の要因の一つではあると思いますが、それだけではありません。1分を争うハードスケジュールの中でも、1人でも多くの人の心に言葉が届くように、そして応援をする候補の勝利に貢献できるように、自分の言葉が大きな影響力を広げるように、真摯に取り組んでいる。その姿勢こそが、多くの人から求められている所以だと思います。

 2016年11月に行われた「『ビジョンと言葉』~ビジョンを正確に発信するために必要な言葉をどう磨くか~」と題した講演の中で、「どんな思いで自分の言葉にこだわりを持っているかと問われると、自分の話している言葉に体温と体重を乗せること」と伝えました。「実際言葉に温度はないし重さはない、けれど必ず言葉には温度が乗り、受け取る側が感じる重量があると感じて話している」と。

 あなたが今日真剣に伝えるシーンがあるのならば、ぜひ少し、真摯な準備をし温度を乗せて、重量を感じていただけるような言葉になっているか意識してみてください。

本誌:2017年11.13号 17ページ

PAGETOP