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連載記事マネーの道しるべ 27

生活に哲学を持つ②

  • 森康彰氏

 イースタリン・パラドックスという現象があります。幸福とは、純粋心理的なため裕福な生活をしても、しばらくするとそれが標準になるため幸福を感じなくなってしまいます。つまり、人々が裕福になれば、幸福度が高まるというわけではないのです。3月11日の東日本大震災以降、民藝運動に対する関心の高まりもそれを表しているように思います。民藝運動は、多岐に渡るためさまざまな側面を持ちますが、その中心人物である柳宗悦氏が東京帝國大学の哲学科を出ていることもあり、哲学的な面も多分に含みます。民藝運動では「用の美」を大切にしますが、僕の解釈では「生活の哲学のもつ美しさ」と言えるのではないかと思います。
 
 もう少し具体的に話しましょう。僕の義父、榊原学は備前焼の陶芸家です。休むことなく、伊部から和意谷にある工房まで通っています。それは、作品の発注があろうがなかろうが毎日のことであり、土や火と向かい合うことはもちろんのこと、畑をしたり掃除をしたりする日常の中で作品が作られています。そんな義父の日常から生まれる作品には「哲学」とも呼べる義父の日常が色濃く反映されています。蒜山のがま細工にしてもそうです。製品としてみると、より丈夫で使い勝手が良いものがほかにもあるでしょう。しかし、僕たちががま細工を手にしたときに感じるのは、蒜山地域の豊かな自然であり、共生する人々の生活哲学なのです。それが心地良いのです。

 実は、民藝運動を経済的な側面から支えたのが大原孫三郎氏であったことは、岡山県内でもあまり知られていません。残念に思います。大原美術館に並ぶ民芸運動の作家たちの活動を支えただけでなく、東京駒場の赤門を向かって左に少し行ったところに日本民藝館があるのですが、これも大原孫三郎氏が建てています。生活に哲学を持つためのヒントは身近な場所、大原美術館の工芸館や倉敷民藝館にもあります。つたない文章のため伝え切れないもどかしさを感じていますが、ぜひ、足を運んでみてください。

●森康彰●2年間、保険代理店に勤めた後、2008年に保険コンサル会社㈲e.K.コンサルタントを設立。2014年に東京支社を設けるなど、首都圏へも業務を拡大中。 敬愛する人物は、稲森和夫、立川談志。

本誌:2017年5.29号 13ページ

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