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ブランド・マーケティング2

 資生堂がコルベール委員会の唱える8つのラクジュアリー・マーケティングの条件の内下記の3つの条件に合致しないことを前回述べた。

 3.高品質でふさわしい価格であること
 4.人から人に手渡しされること
 5.ブランドのポジショニングを高めるためにマーケティングに厳しい自己規制を行っていること

 第二次世界大戦直後から60年代くらいまでの資生堂であれば自制したチェインストア制度の下で「資生堂」というブランドは欧州の高級ブランドメーカーが展開する所謂「セレクティブ・マーケティング」のブランドとして認知されていた。ところが、その後の日本経済の発展の中で流通チャネルを当時大きく売り上げを伸ばしていたダイエーに代表されるゼネラルマーチャンダイズストア(GMS)にも同じ「資生堂」というブランドでチャネル拡大をしていった。この段階でも取り扱う一部の商品は高価格商品ではあったが、既に「資生堂」そのものはラクジュアリー・ブランドではなくなっていたのである。

 同じトイレタリーや化粧品業界のグローバル・リーダーであるロレアルやプロクター&ギャンブル(P&G)なども同じようなジレンマを抱えていた。しかし、早い段階でその矛盾策の解決策を発見していた。これは以前述べたP&Gのニール・マッケルロイのブランド・マンの提言を取り入れたことによる。彼らはコーポレート・ブランドではなくプロダクト・ブランドを中心としてマーケティング戦略を展開したのである。ロレアルの高級ブランドである「ランコム」やP&Gの高級ブランドである「SK II」はそれぞれのコーポレート・ブランド名を資生堂のように前面に打ち出すのではなく、プロダクト・ブランドそのものをあたかもコーポレート・ブランドのように取り扱い、加えて流通チャネル政策やマーケティング政策もラクジュアリー・ブランドにふさわしい戦略で展開している。これを資生堂のようにマスのブランドから高級ブランドを「資生堂」というコーポレート・ブランドで展開していると恐らくロレアルやP&Gは今日のような繁栄を遂げていなかったに違いない。

 ここは大切なポイントなのでもう少し分かり易い例を挙げたい。2006年に花王はカネボウを買収した。資生堂と同じ戦略を取れば、「花王」を「カネボウ」の前に付けて「花王」というコーポレート・ブランドの下で「カネボウ」を展開することになる。恐らく、この戦略を取れば「カネボウ」の売り上げは大きく毀損することが予測される。

 既に資生堂の売り上げの大半はラクジュアリー・ブランドの商品ではなく「つばき」に代表されるようなマス・ブランドの商品の売り上げから成り立っている。従って、取るべき戦略は「資生堂」というブランド名はロレアルやP&Gと同じマスのブランドとして展開し、ラクジュアリー・ブランドをプロダクト・ブランドとして独立させて展開することに尽きる。資生堂はダイエーなどとの取引を開始した1970年ころに、既にこのような戦略に転換しておくべきであった。21世紀になった今日コルベール委員会の唱えるようなラクジュアリー・ブランドのマーケティングを全ての資生堂という名前を冠したブランドとして展開すべきでないことは当然のことである。

 資生堂は創業以来生え抜きの社長であった。しかし、2014年に元ライオンやコカコーラ出身の魚谷雅彦氏に経営を委ねることになった。この戦略転換は正にマーケティング政策上の矛盾の解決策を求めた結果であると考えられる。マス・マーケティング出身の魚谷氏の手腕に期待するところ大である。

本誌:2016年GW特別号 23ページ

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