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連載記事

ポジショニング

 認知や知覚品質を高め、よい連想を生み出す企業サイドの戦略をポジショニング戦略という。厳しい市場競争の中でどのようなポジショニングを確保すれば競争に打ち勝つかはもっとも大切な戦略となる。このポジショニング戦略の良いケースを考えてみたい。

 「出かける時は忘れずに」を知っている方はかなりの年配の方だと思う。1980年代のアメリカン・エクスプレス社(以後アメックスと略す)のTVCMのキャッチフレーズである。当時のゴルフ界の帝王と呼ばれていたジャック・ニクラウスが出演していたあのCMである。戦後日本の外貨事情は非常に厳しいものがあり、海外への出張は大きな出来事であった。私より少し先輩の年代の方たちは会社の上司が羽田から海外に出発する時には課員総出で見送りに行き、万歳三唱をした世代である。その海外旅行も使用できるドルは限定されていた。また、現金そのものを持って旅行にでかけることは危険を伴う。そこで、旅行者は保険、つまり、盗難や紛失した場合には保険でカバーされるトラベラーズ・チェックを使用していた。私が海外を飛び回っていた最初の70年代には全員このトラベラーズ・チェックを利用していた。

 このトラベラーズ・チェックはイギリスのトーマス・クック社が1841年に発行しているが、アメックスは1891年アメリカで最初にトラベラーズ・チェックを発行した会社である。トラベラーズ・チェックは使用する前にサインをしておき、使用する度にカウンターサインをし、場合によってはパスポートの提示により、世界中の多くの小売業で使用することができた。筆者はかつて上司のお供で海外出張をした際にお土産にアストラカンの高級コートを購入するため、100万円近いトラベラーズ・チェックを冷や汗をかきながらサインした思い出がある。トラベラーズ・チェックよりもっと簡単にかつ安全に世界中で使用できるアメックスのクレジット・カードが発行されたのは1959年のことである。俗にプラスチック・マネーとも呼ばれるが、駆け出しのビジネスマンの筆者にとって、そして、恐らく多くの同世代のビジネスマンにとってアメックスを持つことは憧れであった。通常発行されるカードはグリーン・カードであるが、それすら高嶺の花であった。このランクの上がゴールド・カードである。このゴールド・カードは1966年発行されている。1984年にその上のプラチナ・カードが発行されている。この一つ上にブラック・カードと呼ばれるカードがある。

 「出かける時は忘れずに」というコピーを考えたのはオグルビー&メイザー(O&M)という広告代理店である。元々のCMはアメリカで1975年に誕生していた。1948年に英国からニューヨークにやってきたデイビッド・オグルビーにより創業された広告代理店の老舗である。O&Mはブランドの重要性を認識してクライエント企業に提供した最初の会社でもある。ブランドの確立のためには、「ビッグ・アイデア」が重要であると強調している。良いアイデアであればあるほどブランドの連想を消費者に植え付けるのに貢献する。ポジショニングを得、それを確固たるものにするのに「ビッグ・アイデア」は強力な武器となる。

 冒頭のアメックスの「出かける時は忘れずに」もO&M社のビッグ・アイデアの一つである。この優れたTVCMによりアメックスは消費者のイメージの中に強く記憶されたのである。このように素晴らしいアイデアを考え付けば途方もない価値をそのブランドにもたらすことができる。しかしながら、ただ単にコピーが優れているだけでアメックスのブランドが創り上げられたのではない。マーケティング戦略で言う「ザ・ファースト・ムーヴァー」、つまり、アメックスというクレジット・カードを最初にグローバルに展開し高級なイメージを創り上げたことが大きく寄与したことは間違いない。世界のブランドランキングを発表しているインターブランド社の調査によれば2013年度アメックスは世界23位で約1兆8000億円のブランド価値があり、前年比12%アップしている。

本誌:2014年GW特別号 29ページ

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