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死神撃退、半ばうつつ、半ば夢

 立春過ぎから実家周辺で立て続けに四つも五つも葬式がでました。死神が町内を戸別訪問しているのじゃないかと私は恐怖にかられました。なにしろ我が家には96歳と94歳のいつお迎えがきてもおかしくないターゲットが2人もいるのですから。

 そんなある日の夜半、いやもう明け方3時近くでしたが、夜の静寂の中、門扉がカチャリと開く音がしました。「とうとうヤツは我が家に来た!」。あわてて飛び起き玄関ドアを見に行ったらロックし忘れていました。すぐさまダブルロックしチェーンをかけ両親の様子を見たらスヤスヤ安眠中でした。

 ひと安心してまた寝たら今度は風呂場のドアがきしむ音が。「しまった、ヤツは浴室の窓から入ってくるつもりだ」と直感。風呂場に行ったら窓ガラスが開いていて網戸だけでした。

 ガラス戸を閉じて寝室に戻ったら、ヤツは寝室の窓の外に回ってきました。黒光りがする顔でにやりと笑い、口を開けたとき奥歯に金がかぶせてあるのまではっきり見えました。ヤツは窓越しに私の想像をはるかに超えたセリフを吐きました。「オレが連れに来たのはジイサン、バアサンじゃないぞ」。確かにそう言ったような気がします。冗談じゃないよ、まったく。

 吉本の池乃めだかの捨てゼリフよろしく「今日はこれぐらいにしといたる」と言ってヤツは立ち去りましたが、私は2、3日恐怖から立ち直れませんでした。65歳の私が90代半ばの両親より長生きする保証はどこにもないことを私に知らせるためにヤツは来たのでしょう。

 長命の両親の介護に忙殺されているうちに自分自身にも老いが訪れていることを見逃していたような気がします。介護を始めたころはまだ53歳でしたが、いつのまにか私にも人生の終盤が近づいていることが意識の底から顔を出すようになったのでしょうね。

 それにしても死神が実在しているとは夢にも思いませんでした。皆様も戸締まりだけは怠りなく。ガラス戸1枚でも防御効果がありますよ。

本誌:2014年3.24号 21ページ

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