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釧路女流文学の系譜

 昔は芥川賞や直木賞を受賞するとかなり大きなニュースになり世間が騒いだものです。今では書店に特設コーナーができるもののそんなに売れている様子はありません。先日2013年の直木賞に釧路が舞台になった作品が選ばれちょっと興味を持ちました。桜木紫乃という女性が書いた「ホテルローヤル」という作品です。(まだ読んでいません)

 ところで、釧路文学と言えば原田康子(1928-2009)の「挽歌」が1956年に発表され大ベストセラーになり、北海道の地方都市にすぎなかった釧路は全国から押し寄せる文学ファンでにぎわったそうです。古い価値観から解放された世相を背景に早熟な少女(兵藤怜子)が魅力的な設計士一家(桂木夫妻)に近づき、桂木を挑発し、その結果夫妻を破滅へと向かわせます。

 この原田康子の源流をたどればフランスの女流小説家・サガンの「悲しみよこんにちは」に行き着きます。サガンの影響かどうか「挽歌」の主人公(怜子)は会話の地の文に「アミ」(友達)だの「コキュ」(妻を寝取られた男)だの、フランス語の単語を唐突に口にします。今読むとそういう個所では悪寒が走りますが……。

 独特の文体といい背伸びした怜子のエキセントリックな行動といい、アプレゲール(戦後世代=不良)時代のかっこよさだったのかもしれません。しかし、霧につつまれた陰鬱な釧路湿原、霧笛が寂しく響く町の情景をそれぞれに不幸な登場人物たちの心象風景にぴったり重ねて描ききっているところは原田康子にしかなしえなかったことだと思います。

 今回直木賞を受賞した桜木さんはどうやらこの原田康子に触発されて作家になったようです。「挽歌」では今でいうラブホテルがセッティングとして効果的に使われていますが、桜木さんの実家はラブホテルを経営しているとか。釧路の才女達には何かと運命的な共通点があるようです。近いうちに「ホテルローヤル」を読んでみたいと思います。

 数年前、あまり国内旅行をしない私ですが「挽歌」にあふれるフランス趣味と現実の釧路の間にどんな結びつきがあるのか興味がわいてはるばる釧路まで関空から飛んだことがあります。夏でも気温が15度ぐらいしかない釧路はフランスというより北極圏に近いノルウェイの港町に似ているなと思いました。

本誌:2013年7.29号 13ページ

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