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原発事故その後

 東京電力福島第一原子力発電所が地震と津波にもろくも崩壊し過酷な放射能事故を引き起こしたのはわずか2年ちょっと前のことです。いまでも古里を追われ避難生活を続けている被災者が30万人もいるというのに電力業界は原発再稼働にやっきになり、政界でも与党政調会長の高市早苗氏が「原発事故で死者が出ている状況ではない」とおよそ現実離れした発言をして与野党から批判を受けています。

 つまりは被災者以外の多くの国民は原発事故のことはすでに意識の外に追いやってしまっているのがこの国の現状だと思います。そして全国各地に避難している人々の意識にも変化が起き、もはや帰郷をあきらめた人が6割にも達するという報道がありました。

 ここでにわかに福島から遠く離れた岡山がクローズアップされてきます。避難先として岡山の人気が高く岡山に定住する人は依然増加しているとのことです(朝日新聞6月16日)。これに関して美作市在住の作家・あさのあつこさんは「都会でなく、自然条件が厳しくもない岡山の人にはつかず離れずの間合いがある」そんなところが人気の秘密だと分析しています(同記事)。同感です。

 それにしても古里から800㎞も1000㎞も離れた遠い岡山まで移住して来られる方々のエネルギーと実行力には感服します。北関東や東北地方の温かい人間関係を捨てて、京都ほど極端ではないにしてもはっきりいってかなりドライな岡山県人に混じって暮らすのは大変な勇気が必要だったと思います。

 瀬戸内市長船町服部にドイツ式の本格的なパンを作って売る店が昨年暮れにオープンしました。“オぷスト”という天然酵母のパン屋さんですが、もともと埼玉県で開店しようとしていたら原発事故があり放射能の影響を考えて岡山に移住してこられたそうです。小さな子供たちのためとはいえ、そこまでできるのは夫婦の愛情と子供の健康への心配が高市さんなんか想像もできないぐらい大きいからに違いありません。

 この“オぷスト”のパンは上述のような背景を抜きにして単純にものすごくおいしいパンでした。我が家から車で片道1時間かかるのですがわざわざ出かける価値があります。本場ドイツでも今どきこんな食べ応えがあるパンは珍しいでしょう。

本誌:2013年7.1号 13ページ

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