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連載記事

月下美人

 倉敷中央病院の温室にある月下美人が開花すると必ず新聞やテレビのニュースになったものです。我が家にも父が50年ほど前、倉敷の友人から株をもらってきたという鉢植えの月下美人があります。

 花の命は宵闇の中でたったの数時間、豪華な花を年に1回見るためだけに、日当たりのいい玄関先のアプローチに鉢を置いて大切に育てているのですが、この鉢が時々ひとりでに場所を移動。おかしいなと思っていたら兄の仕業であることが分かりました。

 私1人では24時間介護はできないので2㎞ほど離れた処に住んでいる兄に夜の当番をしてもらっているのですが、他人が管理している鉢を勝手に動かす兄についに堪忍袋の緒が切れて「なぜ鉢を動かすのか!」と追及、どうやら駐車のじゃまになるので動かしていたらしい。それならそれでなぜ一言断らないのか、と大喧嘩に。

 ふてて、すねた兄は翌日は車を置く場所がないからとタクシーでやってきてタクシー代930円を払えと迫る。両親は兄の子供3人が小さかったころ自転車で出掛けて守りをしてやったのにその恩義を忘れて何という言いぐさ、「頭がおかしいんじゃない?」と兄弟喧嘩はさらにエスカレートします。

 仲の悪い兄弟で親を介護することの限界を感じてケアマネさんに「自分1人でする方がよほど楽、兄にはもう来るなと言いたい」と相談したところ、ケアマネさんは「親はどんな子でも顔を見せるのを待っているものだ」と説得され、私も兄のしたいようにさせておけという気になりました。

 先日、月下美人が7輪咲きました。その日は父の寝室に鉢を移動し寝ながら観賞してもらいました。私も少し大人になって兄に譲歩。930円渡してやったら満足したようです。鉢も置き場所を変え、“いつでも駐車どうぞ”、という姿勢を見せたら車でなく自転車で来るようになりました。兄63歳、私61歳。喧嘩のレベルはこの60年少しも進化していません。

本誌:2009年夏季特別号 12ページ

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