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半夏生(はんげしょう)

 娘を持たなかった母は、次男の私に漬け物の漬け方や歳時記にまつわるちょっとした知識や智慧をたくさん伝えてくれました。

 その中の1つが半夏生です。半夏生とは夏至から数えて11日目、正確には太陽が黄経100度の点を通過する日のことですが、具体的には毎年7月2日ごろに当たります。

 またちょうどそのころには庭先に繁茂するハンゲショウという薬草が花を咲かす時期にもあたります。花というのは本当の花ではなく先端の葉っぱが半分だけ真っ白になり、昔の人は半分だけ化粧をしている、つまり半化粧と風流な名前をこの草に付けたのです。

 さて母が教えてくれた半夏生とは、6月に塩漬けした梅に赤紫蘇を加える時期の目安として半夏生を覚えておきなさいというものでした。この時期を外すと紫蘇から色素が出ないと。

 母の言いつけを守って今年も8kgもの梅を漬け込み、半夏生の日に赤紫蘇を入れました。後は梅雨明けの三日三晩の土用干しを待つばかりです。

 その母は今では寝たきりで明瞭な意識もない毎日、食事は胃ろうから人工栄養を取っているだけです。口からものを食べないと唾が出ず口腔内の衛生状態も悪くなります。

 そこで登場するのが思いっきり酸っぱい梅干し。箸に梅肉を少しつけて寝ている母の口に近づけると、においで分かるのか目を開けます。箸をチューチュー舐めて唾をごっくん、にわかに表情が生き生きとしてきます。

 歳時記に従って生活していると一年が過ぎるのは早いものです。七夕の日は私の誕生日、海の日は母の誕生日で母もついに90歳です。孝行息子(?)を生み、ついでにおいしい梅干しの漬け方を伝授しておいた母の戦略は成功だったと言えるでしょう。

本誌:2009年7.20号 14ページ

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