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連載記事

文章の長さ

 この「スローライフ」と題した連載をお引き受けするにあたって編集長と一回分の長さ、つまり文字数について打ち合わせをしました。その結果、ひとまとまりの内容を過不足なく表現するためには700字ぐらいが適当であろうということになりました。この長さは私にとってもっとも筆が進む字数ですが、他の人の場合はどうなのかちょっと考えてみました。

 世の中には長編でしか自己を語れない人もいるし、芭蕉のように五七五の文字の中に宇宙をとじこめた人もいます。

 「ヒロシです。引きこもるほどのお金がありません!」。 これは今、大ブレーク中の「ヒロシです」という作品のひとつ。わずか一行の文でペーソスを巧みに表現しているという意味では現代版川柳であり、これがヒロシさん固有の文字数でしょう。万事忙しい現代人に受け入れられやすい簡潔な表現だと思います。

 では今から100年前はどうだったかというと、小説全盛時代で偉大な作品はことごとく長編でした。団塊世代の我々も学生時代、読む気はなくてもドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」などを書棚に飾ったものです。試しにこの大河小説の文字数を数えてみると約110万字!

 「罪の秩序から愛の秩序へ」ただこれだけのことを書くのに100万字を要したのです。でもこの小説に描かれたどんな些細なエピソードも省略可などというところはありえず、この「長さ」が「カラマーゾフ」ファンにとってはたまりません。

 ところで現代日本が誇る大長編ドラマ、橋田須賀子の「渡る世間は鬼ばかり」を要約するといったいどういう言葉になるでしょうか?「いろいろあった」ぐらいしか思いつきません。

本誌:2004年11.21号 16ページ

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