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喫茶店

 旅をしていて、その町に親しみを感じるかどうか、私はいい喫茶店があるかどうかで判断しています。いい喫茶店とは、思索のための時間を過ごすことができ、生きる元気をもらえる場所。もちろんおいしいコーヒーが出てくるのも必須です。

 パリの街角のいたるところにある喫茶店。椅子はガタピシ、店の半分は通りにはみ出しているので、冷房はないしほこりっぽい。それでも飲み物の種類はアルコール類を含めいくらあるのか分からないぐらい多い。気軽に食事もできるし、きびきびしたギャルソンがテーブルの間を泳ぐように移動しつつサービスする様はまるでフランス映画そのものです。旅人の私は一杯のコーヒーをぐずぐず飲みながら絵ハガキを書く。とりたてて言うほどのことは何もないのに、人生最良の瞬間だと思わずにはいられません。 
     
 ひるがえって、私が生まれ育ち、いままた30年ぶりに住んでいる町には「おばちゃん喫茶」というべき店が二つあるのみです。お世辞にもこぎれいな店とはいえません。それでも常連のお年寄りたちのたまり場になっていて、ママさん相手に昔話に花を咲かせています。昭和30年代、宇野線車内は闇米の運び屋であふれていたなんて話を耳にすると、思わず話の輪に入りたいという衝動にかられます。

 近くのデイケアセンターに昼間預けられているお年寄りたちのことを思うと、毎朝自分の意志と足で喫茶店にやってくるお年寄りたちは、よほど幸福な老後を過ごしているという気がします。

 何気なくちょっと立ち寄って人の顔が見られる「おばちゃん喫茶」のありがたみ。そう言えばパリの喫茶店も印象派の絵に出てくるような年輩のお客であふれていました。(康)

本誌:2004年4.1号 16ページ

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