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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

伝説の名女優・原節子(1920-2015)

 今や世界の映画人の間で神様級の扱いを受けている小津安二郎監督(1903-1963)ですが、私が初めて小津監督の存在を知り、彼の映画を見たのは1972年の夏、パリ旅行をしていたときのことでした。トロカデロ広場に面したシャイヨ宮の中にあったパリ国立映画博物館・シネマテークで小津監督作品の特集上映会が開かれていたのです。

 日本ではもう忘れられたような存在だった監督が、映画先進国のフランスではもてもて。その時に観た映画のタイトルは忘れましたが、おそらく小津監督の代表作である、いわゆる「紀子(のりこ)三部作」つまり「晩春」(1949)、「麦秋」(1951)、「東京物語」(1953)の中のどれかだったと思います。これらの映画ではいずれも伝説の名女優・原節子が「紀子」という名の婚期を逃しかけた、あるいは戦争で若くして寡婦になった女性の役を演じています

 最近、この時代の映画の著作権が次々と消滅してきていて、書店の特売品コーナーでは「麦秋」や「東京物語」といった名作のDVDがわずか500円程度の値段で販売されています。いい時代になったものです。

 戦後ベビーブーマーの私の目から小津作品を観ての一番の驚きは、時代背景が敗戦後まだ数年も経過していないというのに、戦渦による混乱、貧困、無秩序なんかはまったく描かれていないことです。

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本誌:2024年5月13日号 13ページ

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