このごろ愛だの自由だの平和だの、そういう昭和チックなお題目を声高に唱える人は、左派の政治家や知識人の間でもアナクロ過ぎてすっかり絶滅しました。対外的にも国際協調よりも国益を重視した発言の方が選挙民の受けがいいものです。ある日突然ロシア軍がウクライナの領土を奪うために戦車を送り込んで平和で豊かだった町並みを無惨に破壊し尽くす様をまざまざと見せつけられる現実。そうした残酷な現実を見ると、愛とか自由、平和、そんなものは中二病のたわごとのようにしか思えないのは無理もないところです。

　先日、嵐の中、私は岡山空港の滑走路を飛び立ったばかりの羽田便の中から窓の外の主翼にぶら下がっている大きなエンジンを眺めていました。大雨をものともせずボーイング737は100人ほどのお客を乗せて高度を上げていきます。そのとき突然、私はどういうわけか“この飛行機は人々の用事をかなえるために東京に向かっている。でもほんの数十年前の1945年8月6日、同じボーイング社が製造したB-29はテニアン島の基地から勢いよく飛び立った。広島の人々を殺すため、広島の街を焦土と化すため、そして日本が二度と立ち上がれなくするため。

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