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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

人生で出会った人々①ウド・ベンシュ(ドイツ人の友人)(下)

 私は中学生のころドイツ文学に熱中し小説や詩を片っ端から読みました。ゲーテの「ファウスト」は中学生にはなかなか歯が立たない本でしたが、トーマス・マンの「トニオ・クレエゲル」、ヘルマン・ヘッセの「郷愁=ペーター・カーメンチント」などはちょうど思春期から大人になろうとする時期の若者の心の躍動、挫折をもどかしいくらいロマンチックに描いていました。その魅力は20世紀前半のドイツ文学特有のもののように思われます。

 中学生の私は主人公になったつもりで湖のほとりにある寄宿学校や友人との出会いを夢想したものですが、ウド君たちに出会ったとき、まさに小説を通じて育んできたことが目の前に実現した思いがしました。「ぜひドイツの我が家に寄ってほしい」という言葉に勇気づけられて、2週間後にはドルトムント近くのイザローンという町の駅頭に降り立ちました。駅まで迎えにきてくれていたウドに再会し、家に連れていってもらい、両親に紹介されました。

 お母さんが作る家庭料理は「ドイツは料理がまずい」という定説を覆すもので、すっかり私はこの家の息子になってしまった気分でした。それ以来、ヨーロッパに行くときは必ずイザローンに寄りました。ある夏はいっしょにインスブルックの登山学校主催のハードな山岳トレッキングに参加したこともあります。

 そのうち私も仕事が忙しくなったのとウドも結婚して娘3人のパパになり、お互い日々の生活に追われ次第に音信も途絶えてしまいました。しかし今から10数年前に思い切って電話したのをきっかけにまたメールでの交遊が復活しました。

 ウドは仕事のストレスで市役所を早期に退職したこと、娘はそれぞれ立派に育ったこと、ダイアナ妃似だった奥さんも欧米人にありがちな堂々たる体躯になったとはいえ、控えめな眼差しは昔のままだということが分かりました。私をいつも温かくもてなしてくれたご両親は認知症を患い、一人息子のウドの苦悩は私の苦悩と共通するものでした。
先日、私は近況を伝えるとともに近々機会があればドイツを再訪したいと書いたのですが、まだ返信がありません。心配なのでこの秋にでも安いチケットを探して、我が青春のドイツの町を再訪したいと思います。

本誌:2018年9月3日号 16ページ

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