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「その男ゾルバ」

 1964年に公開された映画「その男ゾルバ」の英語タイトルは“Zorba the Greek”(ギリシャ人ゾルバ)となっています。封切り当時私は高校生だったので受験勉強が忙しく話題の名作を見逃してしまいました。

 こうした心に引っかかったままの映画が今ではDVDとなりクリックひとつでたちまち自宅に届けられる夢のような時代になりました。「その男ゾルバ」の神髄は、すべてを失い何もかもうまくいかず絶望の淵に立たされたときなお軽快なリズムでステップを踏む……その男ゾルバすなわちギリシャ人の強さ、とでもいいましょうか。

 2015年の夏、ギリシャという国そのものが破綻の淵に立ちヨーロッパだけでなく世界中を不安に陥れています。しかし当事者の中でもキーパーソンのチプラス首相は、苦虫をかみつぶしたような不機嫌なドイツのメルケル首相などとは対照的に満面の笑みをたたえています。

 チプラス政権を支えているのはEUが押しつけようとしている緊縮財政案にNOを突きつけた民衆の人生観そのもの。有権者の6割はゾルバのように浜辺で歌って踊ってことの成り行きを他人事のように眺めています。

 「その男ゾルバ」の中でとても印象的なシーンがあります。島の小さな村。ゾルバと懇ろになった老マダム(フランス人で元娼婦、今は村でホテルを経営)が死の床についています。すると村中の年寄りがマダムのホテルの回りに集まってマダムの死を今か今かと待っています。

 そしてマダムが息を引き取った瞬間雪崩を打って家の中に押し入りありとあらゆる家具、什器、金目のものからガラクタまで一切合切略奪していきます。それが村の風習であり貧乏な村人が生き延びていく知恵なのです。歯が全部抜けた老婆が戦利品を抱えて満足げに微笑んでいる……それがマダムへの供養なのでしょう。

 今日、ギリシャは第2次大戦中にナチスドイツから受けた被害に対する戦時賠償金として36兆円支払うよう要求しています。ドイツは「バカげた話」と一蹴していますが、対応を誤ると島の老婆のようなギリシャの民衆パワーの恐ろしさを思い知らされることになるかもしれません。いったいだれがギリシャの負債問題に片を付けるのでしょう。

本誌:2015年7.20号 13ページ

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