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初冬の日光

 暮れに東京まで出掛けたついでに栃木県日光を訪ねてみました。学生時代に一度行ったことがありますが、有名な陽明門も華厳の滝も何ひとつ記憶になく、初めての観光地に出掛けるようなわくわくした気持ちで東武鉄道の特急電車に乗りました。

 日光駅に到着したとき金髪の白人青年が地図を見ながら思案顔をしていたので話し掛けてみました。大学生のヴィタリー君、極東ロシアから来たそうです。東京にマリコという彼女がいるそうで、マリコさんは仕事があるので昼間1人で鎌倉や日光を観光しているとのことでした。

 “旅は道連れ”、いっしょに日光東照宮、華厳の滝、中禅寺湖を巡ることにしました。ロシア人青年がきらびやかな陽明門を見たら腰を抜かすかな、などと思いつつ東照宮に到着。しかし何たるチア!陽明門は6年に渡る大修理が始まったばかりで白いシートに覆われていました。でも他の建造物も東洋のバロックの名に恥じない華麗な装飾が施してあって2人とも大満足でした。

 華厳の滝を見たあとそば屋に入り親子丼を注文。西洋人は取っ手がついたカップ以外の食器は決してテーブルから持ち上げてはならないとしつけられているので、テーブルの上の親子丼相手に箸で格闘しています。ここは日本式食べ方の手本を示さなくちゃ。「こうやってどんぶりを手に持って箸でかき込むんだよ」。「あっ、本当。とてもおいしい」と感激してくれました。

 “マリコはいつも「ダメダメ、恥ずかしい」と言うんだ。なぜ日本の女の子はみんな抵抗してみせるの?”とどんぶりをかき込みながらロシア人青年がたずねてきます。どうやら公園など人前でキスしようとするとかなり抵抗されるらしいのです。

 いちいちの段階でダメダメと言うくせに結局は拒絶しないやまとなでしこ特有の振る舞いは日本で遊んでいる外国人には有名な話ですが、日本滞在2週間のヴィタリー君には謎であり新鮮な驚きだったようです。

 そんなたわいもない話をしながら中禅寺湖の渚を散策していたらあっという間に夕日が男体山に沈んでいきました。神々しいまでに美しい光景でした。別れる前に私が日光は気に入ったかとたずねたらロシア語で「オーチン・ハラショ!」と答えていました。ロシア人青年にとっても日光は大変結構だったようです。

本誌:2014年1.1号 105ページ

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