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父の本音

 3泊4日で台北に行ってきました。短期間の旅行でも高齢の両親を病院に預け、留守番の12匹の猫たちに餌、水を十分与え、また締め切った家の中で熱中症にならないように空調にも気を使い、戸締りその他万事OKであることを確認して関西空港へ向かいました。それでも新幹線が岡山駅を出て間もなく台所に置いてある糠床を冷蔵庫に入れるのを忘れていることに気付きましたが時すでに遅しです。

 一事が万事、気になることをあれこれ気にしていては旅になど出られません。父は私の旅行に異議は唱えませんがきっと心の中で「あのバカ息子は親を病院に放り込んでおいて台湾とはけっこうなことですな」と言っているに違いありません。

 台北では特に行きたいところも見たいものもなく、ただ街に溶け込んで骨休めに努めました。泊まったホテルの隣に北京ダックの有名店があったので友人と2人で出掛けました。

 日本で食べる北京ダックは皮はほんのちょっぴり、味など分かりません。しかしさすがは本場、ローストされたアヒル一匹丸ごと持ってきて見せて「これをさばいてきます」といったん退場。ほどなく大皿の上にきれいに並べられた皮と薄餅(バオビン)、ネギ、味噌ダレがやってきました。さっそくひと口。「うーむ」。

 正直言ってフグのミリン干しの方が美味かな?などと思いつつ、大の男2人黙々とノルマを果たしていると今度は肉がドーンと運ばれてきました。皮だけでも食べきれないのにとんでもない誤算でした。

 楽しい時間はすぐに過ぎ去り猫12匹が待つ家に帰りました。猫たちは私の不在に腹を立てている様子もなくあくびしながら「どこか行ってたの?」という顔でお出迎え。そして翌日両親を迎えに病院に行きました。

 私の到着を待ちながら父は看護師さんたちに私のことをしゃべっていました。たぶん「孝行息子さんを持って幸せですね」ぐらいのことを言われたのでしょう。父は「バカ親から生まれたバカ息子じゃ」などと本音らしきことを看護師さんたちに漏らしていました。

 私が「どこのバカ息子の話?」と言いながら病室に入って言ったら、それでもうれしそうに「やっと来てくれたのか」と生き返ったような顔になりました。

本誌:2011年7.11号 14ページ

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