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不法滞在問題

 偽パスポートで15年もの間不法滞在していた埼玉県のフィリピン人一家の問題にはいろいろ考えさせられました。

 法務省は「もし親子3人とも残留するつもりなら全員強制退去。しかし、日本生まれの13歳の女の子が残り、両親は帰国するというのならそれは認める」というまるで大岡裁判のような根拠のはっきりしない案を提示し、家族も泣く泣く後者の道を選びました。

 今回のような事件を通して国家が“義理と人情”で移民政策を決定しているような印象を内外に与えるのはいかがなものでしょう。この難しい問題に諸外国はどう対処しているのか、明快な態度を貫いている2つの対照的な例を挙げます。

 1つはシンガポール。この都市国家はハイテクや分子生物学、最先端医学を駆使した頭脳産業立国を目指して、世界中から特別優れた頭脳を億単位の報酬をもって迎え入れる一方、肉体労働やメイドなど社会を下支えする業種の人たちには過酷な滞在条件を突きつけています。

 中でも非人道的だと思えるのは女性に定期的な妊娠テストを課し妊娠していれば即国外退去させてしまうことですが、女性労働者たちは案外割り切って受け入れているようです。

 シンガポールの正反対の国がカナダです。1972年のひと夏をカナダで過ごしたのですが、日系人向けの邦字紙にカナダ政府が繰り返し載せていた広告のことが思い出されます。

 広告の骨子は「カナダに5年以上不法滞在しているすべての外国籍の人に無条件で市民権を与えるので手続きするように」というものでした。要するに、5年以上犯罪を犯すこともなく税金も払ってきた人たちはカナダ市民として受け入れる、という政策です。

 都市国家のシンガポールと広大無辺な国土のカナダでは移民政策に国情の違いが出ていて、政策内容は正反対ですが、それはそれで各国から評価されています。

 それに対して我が日本の入管政策はとてもあいまい。ときの大臣や世論次第で温情的であったり非常に厳正冷酷だったり。こうした態度は日本で一旗揚げようとしている外国人に間違ったメッセージを伝えるだけです。あいまいな政策の結果は不法滞在を15年も見過ごしたあげく家族を引き裂き、一方で国は人権団体やマスコミからボロクソに批判されています。

 ただ私自身はこういう“温情基準”で国政が実行されてしまうのは、日本人独自の怨霊史観や“もののあわれ”意識がどこかに反映されているような気がし、シンガポールやカナダのような思い切った政策を取らない政府の立場も分からなくはないと思うのです。

本誌:2009年3.30号 14ページ

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