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連載記事スローライフ~午後4時の窓辺から~

我が「スタンド・バイ・ミー」

 1986年公開のアメリカ映画「スタンド・バイ・ミー」はアメリカの片田舎に住んでいる少年4人が、死体が森の中にあるといううわさを聞いて、線路づたいに探検に出かけるという話で、ベン・E・キングの鼻にかかった独特の印象深い歌でも有名です。少年たちはそれぞれ家族関係や兄弟との間に葛藤があり、それがこの作品に深みを与えています。

 私自身も映画ほどドラマチックではなかったにせよ、我が「スタンド・バイ・ミー」というべき幼い日の思い出があります。たしか私が小学校4年生、兄が6年生のときのことでした。土曜日の放課後、兄が「これから金甲山に行ってみよう」と言いだし、兄の友達2人も誘って4人で自転車で出かけました。児島湾の向こうにそびえる金甲山です。

 今となっては本当に金甲山までたどり着くことができたのか記憶があいまいですが、出かけたのは事実です。当時はまだ児島湾締切堤防が開通しておらず、灘崎、八浜の方を大回りして金甲山を目指したとしたら遠すぎます。当時の干拓地は背丈より高いアシが繁茂し、人家など皆無でした。おそらく金甲山のふもとにたどり着くまでもなく、夕闇が迫ってきて怖くなり、みんなそろって自宅をめざして引き返したと思います。

 すっかり日が暮れてやっと我が家にたどり着いたとき、近所の人まで集まって大変な騒動になっていました。何しろ小学生4人が行方不明になったのですから。とりわけ父は半狂乱状態で取り乱し、我々の教科書や文具を窓の外へ残らず放り棄てていました。お隣のおじいさんが父をなだめすかしてくれたのを覚えています。「子どもがみんな無事帰ってきたのだからもうええがな」と。

 兄と私はその夜、早めに寝かされました。すると父がやってきて寝ている兄のほっぺたをはり倒しているのです。「次はこっちの番だ」と薄目を開けて様子をみていたら、父は兄を殴りつけて気が済んだのか寝室から出ていきました。そのときほど「次男でよかった!長男は大変だな」と思ったことはありません。

 それから60数年、美しい金甲山の姿は昔と変わりません。しかし家から金甲山まで、車で締切堤防を通って出かけても遠いです。父とはその時のことについてついに話題にすることなく終わりました。遠い昔の惨憺たる冒険旅行でした。

本誌:2021年2月15日号 20ページ

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