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連載記事山田響子の魅力を引き出すコミュニケーション術

言葉の裏にある思いを伝える

 今年の春は、研修難民とも呼ばれる現象が起こっていたようです。例年、中小企業では、他社との合同研修に新入社員を参加させているケースが多いようですが、新型コロナウイルスの感染拡大という事態を受けて合同研修は開催中止が相次ぎました。新人研修を受けさせたいけど、受け皿がないとお困りだった企業が多かったようです。中には入社早々に在宅勤務で、その間に教材映像を見るように指示しただけという企業もあるとかで、卒業式もなかったこの春のフレッシュマンたちが少し気の毒に感じてしまいます。

 ここ数年、ビジネスマナー研修のご依頼は積極的に受けておりませんでした。私でなくてもマナー研修の先生は他にたくさんいらっしゃるし、というような理由でした。しかし、今年はこのような事情を受けて、ご紹介などのご縁をいただいた企業数社で新入社員研修を担当いたしました。合同研修に参加させてあげられなかった企業様、ですので、いずれも新入社員は10~15人程度、中には4人程度の企業様もありました。少人数制だからこそ、お一人お一人にしっかり意識を向けることができて、フレッシュなエネルギーをしっかり受け止めることができました。

 先日伺った企業様、何か講座の中で入れて欲しいテーマがありますか?とお尋ねしたところ「新入社員だけではなく、やはり人間関係の悩みが尽きないのです。その辺りの気持ちの切り替えなどもお話いただけたら」とリクエストをいただきました。限られた1日研修ではありましたが、私の専門でもある、アドラー心理学の対人関係のお話を30分だけ盛り込みました。ごく普通の新入社員のためのビジネスマナー研修ではこんなテーマを入れることは、珍しいと思います。

 そのおかげがあってか、休憩時間にそっと相談に来てくれる方もいました。「だれか先輩社員に聞かれてないかな?」と入り口の方を気にしながらも、「実は上司に言われた言葉で引っかかっていることがあって…」と打ち明けてくれたのです。それはささいな上司の一言。本当に悪気ない一言。でもちょっぴりショックだった一言。詳細はお伝えできませんが、ある先輩が自分に仕事内容を教えてくれていたのに、「それはその子じゃなくて、別の〇〇さんに教えたほうがいいんじゃないの?」と上司が言って去っていった、とのこと。「私は期待されていないのか、私ではダメだと思ったのか…」と少し傷ついていたのです。

 事情をお聞きすると、なぜ上司がそういったのか、その裏側が私なりに見えてきます。「その上司は、きっとこんな思いでそう言ったのだと思いますよ」とお伝えした時、「そうか!そうですね!私には別の期待があってそう言い方をしたんですね」とキラリと表情が輝きました。

 2020年6月からパワハラ防止法が施行されます。この上司の発言はパワハラに当たるような事柄ではありませんが、土台は同じなのかもしれません。よーし!今からパワハラをするぞ、と思ってハラスメントになっている人はいないように思います。自分にとっては、何気ない一言(または感情に乗っ取られていってしまった一言)が結果としてハラスメントに結びついているのだと思います。

 先に出た上司も、「何のために」そう指示をしたのか、この指示が「何につながっているのか」言葉の裏にある思いを伝える、一手間があればその新入社員は胸を傷めることはなかったのかもしれません。そして「何のために」「どこへ向かって」という目的を添える意識を持てば、そんなつもりはなかったのにというハラスメント事例は随分と減るような気がしています。

 私たちは誰しもが言葉の裏に「言わないでも伝わっているだろう」と思ってしまう思い込みを持っています。そのことが人間関係のトラブルの種になってしまうことは数知れません。なぜなら、言わないでも伝わるだろうと思って言わないことは、意識の下に埋もれてしまっているからです。意地悪や手抜きで伝えていないわけではないのです。

 だから私たちは、いつも自分の思考に気をつけて、その思考を言葉に表して伝えることを意識しておきたいのです。経験値やこれまでの環境やコミュニケーションのタイプが違うものたちが、同じ目的に向かって行動を共にするのだから、分かり合うには努力が必要です。その努力は心地よい職場の対人関係につながりますから、ぜひ心掛けてみてください。

本誌:2020年GW特別号 20ページ

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