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巻頭特集岡山県下の金融機関

相続・事業承継業務を拡充 高齢化で揺らぐ経営基盤に危機感

  • 全職員が終活の資格取得目指す吉備信用金庫

 今年4月から事業承継税制の優遇策が拡充されたほか、来年1月の民法改正で相続制度が大きく変わることから、関連ビジネスが活気づいている。県下の金融機関でも、相続・事業承継のニーズの高度化、多様化に対応し関連の商品・サービスの品ぞろえを強化しているほか、組織内の営業体制の整備を急いでいる。数年前まで相続・事業承継は専門性が高いため一部の部署を中心に動いていたが、今や営業戦略の中核を占めるテーマで組織を挙げての総力戦の様相を呈している。

品ぞろえ、体制整備を急ぐ

品ぞろえ
不動産小口化など多様化
保険商品依然根強い人気

 ㈱中国銀行(岡山市)は、SBIマネープラザ㈱(東京都)と業務提携した。不動産の所有権を多数の持ち分に分割し販売する不動産小口信託受益権、航空機などに投資するオペレーティングリースの匿名組合出資の顧客を同社に紹介していく。

 同受益権は不動産投資信託など証券化商品と違い、小規模宅地等の特例の評価減などを適用でき相続税対策となる。オペレーティングリースは、出資者を募り航空機、船舶などを購入し航空会社などに貸し出す仕組み。出資する企業は当初大幅な損失計上となるため自社株の評価が下がり、事業承継対策にも使える。

また、同行は、昨年4月に民事信託契約支援、後見制度支援信託の取り扱いを開始した。今年に入り(公財)大原美術館、国立大学法人岡山大学と遺贈について業務提携した。

 地銀の中でも品ぞろえは充実しメガバンクにも準ずる内容で、今回の同受益権なども既に扱っていたが、「多様化するニーズに対応し、さらに顧客の選択肢を広げるため」、SBIと提携した。

 ㈱トマト銀行(岡山市)は、保険商品の品ぞろえを強化している。昨年12月には日本生命保険(相)(大阪市)の「夢のプレゼント」(指定通貨建生存給付金付変額保険)、7月には三井住友海上あいおい生命保険㈱(東京都)の法人向け「オーナーズロード」の取り扱いを開始した。夢のプレゼントは生存給付金の受取人を家族にすることで生前贈与に活用できる。オーナーズロードは解約返戻金で事業承継対策にも使える。

 信用金庫では、昨年から玉島、水島など7信金が上部団体の信金中央金庫(東京都)の信託契約代理店として相続型と生前贈与型の2種類の金銭信託の商品を取り扱っている。信用組合では、笠岡信組(笠岡市)が4月にオリックス銀行㈱(東京都)と信託契約代理店となり相続型の金銭信託商品を発売した。

体制整備
株価算出システムを構築
全職員に終活資格奨励へ

 品ぞろえと並行して、内部の体制整備、人材育成も急ぐ。おかやま信用金庫(岡山市)は8月9日、TKC中国会岡山県支部と事業承継の支援で連携協定を締結した。営業エリアを岡山、玉野、倉敷など6つのブロックに分け、それぞれ3、4人の税理士と渉外担当が11月から企業を訪問する。取引先の財務内容を把握している税理士と組むことで、より的確な提案ができるという。水島信用金庫(倉敷市)は、昨年度に売上高、総資産などから取引先の自社株の株価を簡単に算出できるシステムを構築した。事業承継はまずは経営者が自社の株価を知ることが出発点となるからだ。これをもとに事業承継提案書を作成し渉外担当が取引先を訪問、1年間で70社以上に提示した。

 笠岡信組は「創業・事業承継支援室」、吉備信用金庫(総社市)は「事業サポートグループ」を4月に設置した。それぞれ創業と事業承継を同じ部署で扱っており、両者のマッチングを図りアトツギ創業を狙う。また、吉備信金は、全職員(約150人)を対象に(一社)終活カウンセラー協会(東京都)認定の「終活カウンセラー」の資格取得を促す。初年度は68人が初級を受講し資格を取得した。全店に有資格者を配置することで、顧客からの相談に迅速に対応する。信金・信組では、相続や事業承継のニーズが高まり客層のすそ野が広がる中で、専門部署だけでなく現場の渉外や窓口担当の職員も対応できるように全体のレベルアップを図る。

 この点で地銀、第二地銀は先行し既に現場の渉外でもある程度は対応可能となっている。中国銀行では、16年10月に銀行本体で遺言信託・遺産整理業務の取り扱いを開始した。これらの相談件数は従来年間100件程度だったが、18年度は上半期で既に達した。高齢化で関心が高まっている上に、本体参入で営業店の担当者が本部担当者とともに直に対応できるようになったことも、件数増につながったよう。

 今後さらに高いレベルの相談内容にも対応できるよう専門部署、特にM&Aの人員を強化している。中国銀行ではM&Aの担当者8人を配置。他の行員にも「事業承継・M&Aエキスパート」(現在46人)の資格取得を促す。トマト銀行も4月にコンサルティング営業部のM&Aの担当行員を1人から6人に増員している。

背景
後継者不在で顧客が廃業
相続で預金流出依然続く

 県下の金融機関が総力戦で相続・事業承継に取り組む背景には、人口減少、高齢化が進み金融機関の経営基盤そのものが揺らぎ始め危機感を募らせているからだ。親の死亡で相続人の子どもがいる大都市部への預金の流出が続いている。さらに後継者不在で今後取引先の廃業が相次げば、融資先が減る。特に信金・信組勢ではマイナス金利導入以降地銀など上位行からの低金利攻勢で苦戦、融資残高は全般的に伸び悩んでおり、さらに廃業が加わればダブルパンチだ。

 一方、相続、事業承継は取引先との関係を深めるビジネスチャンスでもあることも、各機関で力を入れる理由だ。

 事業承継は後継者の力量が未知数のため、金融機関にとっても不安な面があり企業に対する評価が厳しくなる傾向にある。もっとも支援機関の関係者によると、事業承継ブームの中で「最近はそれも変わり柔軟になってきた」と言う。金融機関側も後継者の力量に対する目利き力をさらに養う必要がある。


民事信託

 家族、親族などに不動産、自社株などの財産管理を委託する。後継者への財産移転をスムーズに行えるようにするものだが、非営利で受託するため信託業法の規制を受けず自由度の高いスキームが組める。将来判断力が衰えることが不安で、財産の管理を任せたい、財産の価値が高く生前贈与に時間がかかりそうだが、財産の管理だけでも早めに家族に任せたい、財産を管理する権利は自分に残した状態で、生前贈与を進めたい―などのニーズに対応できる。その利便性から最近徐々に利用が増えている。民事信託契約支援業務を手掛ける㈱中国銀行(岡山市)でも、「最近不動産オーナー、法人オーナーからの相談が増加している」という。

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