WEB VISION OKAYAMA

連載記事

イタリアへの旅(4)

 ヨーロッパに出かける楽しみのひとつにオペラ鑑賞があります。今回宿泊したテルミニ駅(ローマ中央駅)近くにはローマ歌劇場があり、私の滞在中は毎晩バレエの人気演目「ドンキホーテ」が上演されていました。できればバレエではなくオペラが見たいと思っていたら、歌劇場近くの教会でヴェルディの「椿姫」の公演があることが分かり旅の相棒を置いて一人で出掛けてみました。

 超一流のメンバーによる公演ではないにしてもそこはイタリア、さすがです。しかも教会の祭壇を舞台にしつらえ観客は会衆席に。高級娼婦ヴィオレッタとうぶな青年アルフレードの二重唱を圧倒的な声量で聞く喜びは小会場ならではです。

 最前列に陣取った私の隣には日本人女性が座っていて、幕のあいだ少しお話ししました。以前はニューヨーク勤務だったそうで、そのときオペラを見る楽しみに目覚め、いつか本場のイタリアオペラを見たいと思っていたのが今日実現したと語っていました。

 不幸な役をやらせれば日本一と評判の女優、木村多江を思わすやや翳りのある美貌、知性がおのずとにじみ出ている立ち居振る舞いが気になりオペラに集中できません。終演後は思い切って「コーヒーでも」と声をかけよう!(まるで中学生です)、「いや客観的に見て、こんな知ったかぶりジジイとお茶するなんて自分でもノーサンキューだわ」と自問しているうちに「椿姫」は感動のフィナーレを迎えました。

 ここは2000年の都ローマ、しかも教会の祭壇の前、感動のオペラの余韻がまだ残っている! 私は思わず「コーヒー、いかがです?」とニューヨーク帰りの木村多江さんに声をかけていました。

 「もう遅いですし、友人が待っていますので……」それはそうでしょう。オペラが始まったのが夜の8時半で時刻はすでに11時を過ぎています。深夜のローマは物騒。しかし終演が早い日本と違いローマの夜はこれからです。食事にワイン、お開きになるのは深夜2時3時、ときには夜が白むまで彼らの楽しみは続きます。

 柄にもないあつかましい誘いを断られて、何だかほっとして、ホテルまでの数百メートルの道を、ちょっと残念と思いつつ、心は軽く、後輩君が待っている安宿へ引き上げました。楽しかった4泊6日のローマ旅行もこうして無事終了しました。(了)

本誌:2018年1.1号 88ページ

PAGETOP