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「わが青春のマリアンヌ」

 シニア世代になった今も見るたびに思春期のころに引き戻してくれる特別な映画があります。「わが青春のマリアンヌ」。「銀河鉄道999」の松本零士など多くのクリエーターに多大な影響を与えた作品といわれています。監督はジュリアン・デュヴィヴィエ、仏独合作映画で1956年に公開された白黒映画です。

 実はこの映画にはフランス語版とドイツ語版の2種類があり、単に音声吹き替えというのではなく、主役の少年がドイツ人とフランス人のダブルキャストで撮影されています。両方とも現在YouTubeでフルムービーが視聴できますが、私はだんぜんドイツ語版の方が好きです。

 何と言っても若き日のホルスト・ブッフホルツが演じる主役のヴィンセントの憂いを含んだ繊細な演技が素晴らしい。思春期の少年独特の夢想、冒険、夢と現実の境界を自由に行き来するたましい、そんなものを見事に表現し尽くしています。

 物語は、ある日森の奥にある寄宿学校にアルゼンチンからヴィンセント少年が転校してきます。湖の向こう岸に古い館があり、そこにマリアンヌという美しい少女が恐ろしい老伯爵かなんかに幽閉されていて、助けを待っている……。ヴィンセントは嵐の夜、手漕ぎボートで救出に向かいます。どこまでが夢で何が現実なのか、映画を見ている人は次第に青春の迷宮に導かれていきます。

 この映画では青春のロマンチックな感情だけでなく残酷さも遺憾なく描かれています。男の子(小学生から高校生ぐらいの年代)だけの寄宿学校ですが、そこに校長の親戚の少女、リーゼもヴィンセントに少し遅れて転校してきます。

 ヴィンセントは故郷のアルゼンチンのパンパで野生の馬を自由に乗り回していたほど動物の心をつかむ魅力を備えた少年です。深い森の中にある寄宿学校でヴィンセントがアルゼンチンの民謡をギターに合わせて歌い始めると、野生の鹿たちも感動して窓の外に集まってきます。

 ところがヴィンセントの存在にうっとりしたのは鹿だけではありませんでした。リーゼも一方的に恋をし、ヴィンセントが大切に飼っている鹿を彼女は殺してしまいます。嫉妬からです。思春期の夢想から抜け出せない少年と一足先に「おとな」になった少女の心の対比が残酷にも美しく描かれています。

本誌:2017年6.12号 14ページ

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