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役人の生理学

 19世紀フランスを代表する文豪の一人であるバルザックは「谷間の百合」など大作のほかにも「役人の生理学」のような辛辣なエッセイを残しています。バルザックによると「役人とは生きるために俸給を必要とし、自分の職務を離れる自由を持たず、書類作り以外なんの能力もない人間」だそうです。

 1月末にベトナムに行こうと友人から誘われたのですが、いつのまにか10年前に作ったパスポートの有効期限が残り少なくなっていて、新年早々に岡山駅西口にあるパスポートセンターに行き発給申請をしました。そして待つこと1週間、交付開始日にさっそくセンターに向かって車で出発したのはいいのですが途中で財布を忘れていることに気づきUターン。情けないし疲れます。

 気を取り直して再出発、イオンモールに車を止め、旅行のガイドブックなど物色して、そのまま徒歩でセンターに向かいました。歩くにつれ持病の右ひざが痛みます。やっとのことで駅を越した辺りでふとかばんをチェックしたら、今度は「一般旅券受領証」がありません! 重い足を引きずりながら半分ほど引き返した時点で「待てよ、受領書は受領書に過ぎないではないか、紛失する人もいるだろうし忘れる人もいるだろう。ダメもとでお願いしてみよう」

 案の定、係りの女性は「渡せません、取りに帰ってください」とにべもない。「家に帰っても紛失しているかもしれないし」と私。「受理番号が分からないので探すのに時間がかかるし、他の人の後回しになるので相当お待たせします」と係員。いちおう原則論というか意地悪を言ってきます。それが「役人の生理学」ですから。

 「何だ、絶対ダメではなさそう。それに時間がかかると言ったって平日の昼下がりは開店休業状態。お客は2、3人しかいないし、パスポートは日付順に保管してあるに相違なく、まさか午後中待たされることもないはず」。案の定、2分もしないうちに呼ばれ、あっという間に真新しいパスポートを賜りました。

 財布を忘れ、大切な受領証を持参するのを忘れるとはボケもいいとこですが、ボケた分知恵というか押しの強さが身についた感じがします。とまれ、現在満68歳、この先元気でも旅券更新できるのはあと1、2回だけ、わが旅人生もthe endです。

本誌:2017年1.30号 14ページ

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