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シド・ヴィシャスのマイウェイ

 1980年代、カラオケが全盛期だったころ、おじさん世代に絶大な人気があった曲といえばフランク・シナトラの“マイウェイ”をおいてほかにありませんでした。

 おじさん族が歌う“マイウェイ”は自分なりに頑張って成功体験も重ねてきた人生を、著しい自己肯定感を伴い、原曲の歌詞の世界と一体となってひとりよがりに歌い上げるという、そら恐ろしいものであるのが常。しかもへたに上手に歌うと周囲の人はますますドッチラケするという魔のナンバーです。

 プロの歌手によるカバーでもフランク・シナトラを超えることはありえない……と、長年私は信じていたのですがあるときイギリスのパンクのカリスマ、シド・ヴィシャス(1957-1979)が歌うマイウェイを聞いて衝撃を受けました。

 YouTubeで繰り返し視聴されている映像。フランスのどこかのコンサートホールで、シドが満席の観客の前に降臨しマイウェイを歌います。客席は若者から上流階級の老貴婦人にいたるまで大興奮の渦につつまれます。エリザベス女王そっくりの老婦人もいます。歌の終わりが近づき聴衆の熱狂が頂点に達したとき突如シドは胸からピストルを取り出し客席に向かって銃の乱射を始めるというアンリアリステックで残酷、美しい映像です。

 フランク・シナトラのマイウェイは一人の男が人生を誠実に生きてきた生き様を高らかに歌い上げるものでしたが、シド・ヴィシャスの人生とは?シドは極端な麻薬愛好者で前述のコンサート風映像においても目が宙を泳いでいています。モデルなみの高身長とルックスで体を激しく動かすその体の線は極端にやせ細っていて痛々しいぐらいに美しい。

 歌の内容はポール・アンカが作詞したオリジナルに似ているけれどよく聞くと“オレはオレ流のやり方でネコを殺した”などと解釈が難しい歌詞になっていますが、不思議と美しものです。まさにフランク・シナトラと正反対の世界を体現していながらシナトラを超える感動を覚えるのはファンの多さからもうかがえます。わずか21歳で死に伝説を残したシドですが、伝統と格式の国イギリスはときおりとんでもない前衛アーティストを生み出す国でもあります。ぜひ一度シド・ヴィシャスのマイウェイを聴いてみてください。

本誌:2016年5.23号 15ページ

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