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異文化の許容範囲 グローバル or 独自基準

 10年ほど前まで、私の家は総社市でひなびた旅館を営んでいました。ある日のことです。接客応対していた女将に対して、保育園に通っていた孫娘がこう伝えました。(ご年配のお客様の二の腕を指さしながら)「この人、ここに絵が描いてあるよ。ほらっ、見てみて。」

 30年以上店を切り盛りしてきた百戦錬磨の女将も、ただただ苦笑するしかなかったそうです。件のお客様が即座に笑い飛ばしてくださり事なきを得たそうですが、背筋が少しだけ冷やっとしたそうです。

[入れ墨が与える印象]

 人目に触れるところに入れ墨があれば、採用を控えるという企業は少なくないでしょう。つまり、ほぼ確実に就職・転職活動では不利に働きます。これは、江戸時代に刑罰として犯罪者の印である入れ墨が人目にふれる額や腕にいれられたことに端を発しており、現代においても反社会的な組織の構成員の証のように捉えられているからだと推察されます。

 2012年には橋下大阪市長の指示により、教職員を除くすべての職員およそ3万3000人を対象に、腕や足などに入れ墨がないかの調査が行われ、回答を拒否した6人が戒告の懲戒処分を受けました。処分の取り消しなどを求めた裁判では、「社会的な差別につながるおそれがある情報の収集は個人情報保護条例に違反し違法だ」などとして、大阪地方裁判所が懲戒処分や配置転換を取り消す判決を言い渡しました。

 国内メディアでは「公務員の入れ墨には違和感がある」として判決に批判的な論調が散見されました。しかしながら、ネットを通じて海外からの反応はかなりニュアンスが異なり大変興味深いものでした。様々な国から発信されているので賛否両論はあったのですが、この判決について「妥当である」という概ね好意的な意見で占められていたのです。

[倫理観と商いの境界線]

 「日本社会で、どこまで入れ墨が許容されるか」については、世論と時流が境目を決めていくことなのですが、そんな悠長なことをいっていられないという人たちが現れました。外国人観光客を日本に誘致したい国土交通省(観光庁)や地域、そして観光に関わる事業者です。

 例えば、入浴施設・プール・スポーツジム等では、入れ墨・タトゥーお断りの施設が多数あります。やはり、入れ墨に威圧感を受ける方がいることも事実で、とくにファミリー利用を中心にターゲティングしている業界は細心の注意を払っています。

 このボーダーラインが2013年に問題となりました。ニュージーランドの先住民族(マオリ族)の女性が北海道の温泉施設で、民族の伝統文化である顔の入れ墨を理由に入浴を断られたのです。「尊厳を傷つける人種差別だ」として、その女性が批判声明を出し注目を集めました。ちなみに、施設側は「入れ墨に恐怖感を覚える人がいる。入れ墨が見えれば一律で断っている」とコメントしています。

 世界的にみれば民族的・宗教的な入れ墨以外にもファッションとしてアクセサリー感覚でタトゥーをいれる国や地域は多く、できるだけ外国人観光客を呼び込みたい関係者にとって、この種のトラブルは頭の痛い問題なのです。

 利用制限がある施設の存在を隠そうとすればトラブルの温床ともなりかねませんから、当面は日本の現状を正直に広報し、利用の可否を分かりやすく表示をする棲み分け対応が現実的でしょう。また、ビジネスとしては世界の多数派に準拠した施設が今後増えていくと予想されます。その中で自社はどうするのか、ぶれない方針を定めることが肝要かと思います。

[不利益に対する覚悟]

 意外と知られていないのですが、入れ墨による制約や不利益はこの他にも存在しています。例えば、MRI検査もその一つで、火傷や変色・変質の可能性があり検査を拒否する医療機関もあるそうです。まだまだ日本では「ファッションだから」では済まされそうにありませんから、次代を担う人たちには十分な情報収集と検討をして欲しいと考えています。



筒井徹也(鉄じぃ)
スウィングモード 代表
倉敷芸術科学大学・倉敷市立短大 非常勤講師
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本誌:2015年8.24号 30ページ

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