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テロと日本の安全

 「イスラム国」による日本人人質事件は最悪の結果になりました。かつて大騒動になったイラク人質事件(2004)のときは“自己責任”論が政府サイドから発せられ、またマスコミを通じて評論家たちが声高に3人の人格や行動を糾弾したものです。

 救出に要した費用を負担すべきだとか帰国便の航空運賃を払えなどと涙が出そうなくらいみみっちい議論がまかり通っていました。ところがイラクの混乱を引き起こした当事国であるアメリカのパウエル国務長官が「より大きな、よりよい目的のためにリスクを取る若者が日本にいることを日本は誇りに思わなければならない」と発言して急にバッシングの嵐が収まりました。

 当時に比べると今回は自己責任論がほとんど出なかったのは、安倍首相が「人質救出は国の義務」、「移動の自由は憲法が保証している」と明言したのもひとつの理由でしょう。しかし、後藤健二さんのこれまでの業績を知るにつれ、誰も後藤さんの行動を非難できない、日本にとっても世界にとってもかけがえのない人を失ったという思いを我々が共有しているからだと思います。

 事件は一応の終結を迎えたのですが、やっかいなことにイスラム国は日本をテロの標的にすると公然と宣言しました。

 お隣の中国はさまざまな理由で常にテロの危険をはらんでいます。地下鉄の改札口では荷物はすべてエックス線装置に通さなければなりません。長距離列車はまるで空港で飛行機に搭乗するような手順のセキュリティ対策が徹底されています。

 今回の事件を受けて政府は入国審査の強化や重要施設の警備強化を打ち出していますが、そのうち新幹線に乗るにも中国並みのセキュリティ警戒レベルが設定されるのではないかと危惧しています。もしそうなったら現在のように5分おきに新幹線を発車させることは不可能になります。

 交通機関だけでなくあらゆる日常生活の場面でセキュリティに関わるコストが増大することはもはや避けられない時代に突入したのかもしれません。ほんの40年ほど前まで飛行機に乗るのに何のチェックもありませんでした。もうそんな時代は夢のまた夢ですが、今でも世界でもっとも安全な国である日本がこの先いつまでも日本人にとっても旅行者にとってもほっとできるいい国であることを願わずにはいられません。

本誌:2015年2.16号 11ページ

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