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集金旅行 1

 映画のロケ地を訪ねる「シネマで散歩」。PART3は、昭和32年公開のロードムービー「集金旅行」(監督/中村登、原作/井伏鱒二、主演/佐田啓二、岡田茉莉子)。中・四国の各地で行われたロケ地を訪ねる。

 サラリーマンを卒業した翌年の平成20年から大好きな“映画”のロケ地巡りを始めた私にとって、いわゆるロードムービーのはしりともいえる「集金旅行」のロケ地は、いの一番に訪ねなければならない場所だったが、何しろ56年前の映画。レンタル店にもビデオがなく断念していたが、今回、やっとのことでVHSを手に入れ、視聴することができた。

 ところでロードムービーという言葉だが、キネマ旬報社刊の「現代映画用語事典」によると、“主人公が長距離の移動や旅行・放浪をする過程、および途上の出来事を描いた映画を漠然と指す”とある。
 「集金旅行」は、貸金と慰謝料の取立て旅行に出る主人公の男(佐田啓二)と女(岡田茉莉子)が、中四国の各地を訪ね珍道中を繰り広げるという物語。岩国、山口、萩、松江、瀬戸田、徳島、鳴門を舞台にオールロケで撮影されている。

 「シネマで散歩」のPART3では、これらの場所をストーリーに沿って訪ね、昭和32年のロケ当時と今のロケ地をさまざまな角度から紹介したいと思っている。

「あなたへ」のロケ地・平戸市薄香(うすか)

 さて、今回の第1回は、高倉健が6年ぶりにスクリーンに帰ってきた「あなたへ」(昨年8月公開、降旗康男監督)のロケ地平戸市・薄香を訪ねるスペシャル版。“故郷の海に散骨してほしい”という亡き妻(田中裕子)の願いを叶えるため倉島英二(高倉健)が、キャンピングカーを運転して富山から妻の故郷・平戸市まで旅をするというロードムービーである。

 実は、今年5月、バラ祭り開催中のハウステンボスから城下町平戸を巡る2泊3日の旅をした時、薄香を訪ねた。今回、PART3を連載するにあたり、この薄香を第1回として取り上げたい。次回以降紹介する昭和32年のロードムービー「集金旅行」へ敬意を表して・・・。

 平戸の宿は、旗松亭。フロントに「あなたへ 平戸薄香ロケ地マップ」が置いてある。そうか、「あなたへ」のラストシーンは、平戸で撮影されたのか、と、ここで気づく。あすは予定を少し変更してロケ地を訪ねてみよう。 宿のスタッフが8階の部屋“海鳴”に案内してくれる。「お客さん、ロケ中、この部屋に高倉健さんが、お泊りだったんですよ」。「え!」と驚き、思わず部屋を見渡す。なるほど、決して新しくはないがいい部屋だ。何より、部屋からの眺めが素晴らしい。正面、平戸港をはさんで小高い丘の上
に白亜の平戸城が聳えている。右手のベランダに廻ると、港からなだらかな傾斜を作りながら伸び上がっている山裾に、2つの寺院とザビエル記念教会の天主堂が重なるようにして薄霞の中、佇んでいる。歴史とロマンの島・平戸を象徴する光景が目の前に広がっている。ラッキー、としかいいようがない。

懐かしい故郷の香りが漂う港町

 翌朝、薄香に向かう。宿から薄香の港までは車で約15分の距離だ。撮影時や試写会の写真、ロケの模様が掲載された新聞記事などが展示されている休憩スポットの前を通り、停泊している漁船を左に見ながらU字型に伸びる港沿いの道をゆっくりと走る。英二が運転するキャンピングカーと同じように。 漁協の奥にある駐車場に車を停め、ロケ地マップを手に港町の集落を行きつ戻りつしながらのんびりと散策する。5月とは思えないほど蒸し暑いが、時おり潮風が頬をかすめ気持ちがいい。英二が局留め郵便で送られた亡き妻からの絵手紙を受け取った薄香郵便局は、今は、もとの薄香公民館に戻っている。嵐のような大雨の中、英二が泊まった濱崎食堂、亡き妻の少女時代の写真を見つけた冨永写真館として撮影された2軒の民家は、今もロケ時の暖簾と看板がそのまま掛けられている。集落の中をうねるように続く港町特有の細長い道を歩いていると、田舎で過ごした子供の頃が思い出される。懐かしい昭和の香りを漂わせる民家が続いている。

 亡き妻の描いた“さようなら”の絵手紙をしっかりと握りしめ、写真館の前で、ひとこと“ありがとう”と一礼する英二。妻を亡くした英二の心を包み込み、そっと送り出す薄香の海と港は限りなくやさしい。薄香は、“さようなら”と“ありがとう”が似合う長旅の終着駅にふさわしい場所だった。 
                        (鷹取洋二)

本誌:2013年10.7号 1ページ

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