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やっちもねえ

 10年ほど前に開いた中学校時代の同窓会2次会でのことです。Kさんという主としてヨーロッパ各地の芸術祭で活躍している女性舞踏家が何十年ぶりかで顔を出しました。

 今では舞踏はそのまま“butoh”として通じるぐらい日本発の最先端前衛芸術として国際的に認知されていますが、彼女がフランスに渡ったころは舞踏など評価以前の存在で当然のことながら日常生活も苦労の連続だったと思います。

 いっぽうIさんという女性も同じころ同じパリの屋根の下で商社駐在員夫人としてリッチな生活を営んでおられたようです。彼女の話が芸術よりもブランドやグルメの話に傾くのは致し方ありません。我々男性陣は50代半ばというのに今も脚線美を誇るIさんを取り囲んで彼女が少しも型崩れしていないことを褒めそやしていました。

 そこにKさんがやってきました。彼女は我々一同が他愛ない世間話で盛り上がっていることにあきれたのかひとことつぶやいて去っていきました。「やっちもねえ!」

 びっくりしました。長年フランスで暮らしていた女性がこんな古典的な岡山弁を覚えていて、しかもこれ以上適切なタイミングはないだろうというときに放った毒矢の威力! 脚線美に悩殺されていた男達を一瞬にして黙らせる効果がありました。

 この事件(?)以来、私もときおり「やっちもねえ」とつぶやくことがあります。テレビのワイドショーがオリンピック金メダリストの柔道家が起こした強姦事件の公判の様子を取り上げていました。

 法廷では赤裸々な応酬が繰り広げられたようです。しかしこの種の密室で起きる事件は果たして法廷で争うようなことなのか疑問に思います。被告が未成年に酒を飲ませたというけれど、18歳にもなった大学生が酒を飲んでいいかどうか自分で判断できないはずがありません。

 そして以前から女子学生に懇切丁寧な“シドー”を繰り返しているといううわさがあった金メダリストと同じ部屋に入ったこと自体、事件の免責性を物語っているように思えます。「やっちもねえ!」

 冒頭紹介しました舞踏家のKさん、最近は日本公演もあるようですが、YouTubeで彼女の芸術の一端を見ることができます。Sumako Koseki で検索してみてください。

本誌:2012年12.10号 13ページ

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