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寄稿タイ自動車産業視察記 青井賢平氏

日本メーカーの拠点化が急ピッチ 痛感した中小企業の「強さ」と空洞化への「懸念」

  • タイの三菱自動車工場を訪れた青井氏ら

 トマトリース㈱(岡山市)は東京センチュリーリース㈱(東京都)と連携し、今年4月に立ち上げた「海外進出日系企業支援事業」の効果的な推進を図るため、10月3~6日にかけ、成長著しいタイの自動車産業を視察した。この視察団(団長・鳥井正夫トマトリース社長、5人)に参加し、三菱自動車工業㈱、ヒルタ工業㈱、㈱みずほコーポレート銀行など約10社を訪問した。超円高時代を迎えた中、フル操業が続いており、加えて日系企業の進出が急増するなどアセアンの自動車生産・輸出の拠点としてさらなる発展を確信するとともに、岡山県内のものづくり中小企業の海外進出、岡山県産業の空洞化進行への危ぐの念が強まる訪問だった。

 従来タイはコメなどの農業、宝石などの軽工業が中心だったが、1980年代以降、政府は経済発展のため外資誘致政策を展開し、日本企業を含め欧米各国からの企業誘致に成功した。

 特にプラザ合意後の急激な円高で日本企業の進出が加速。そしてインド洋大津波、軍事クーデター、リーマンショックなどを乗り越え、今やアセアン最大級の家電、エレクトロニクス(ハードディスクドライブの生産量世界1)、自動車の生産・輸出拠点へと成長している。日本にとってタイは中国に次ぐ日系企業の集積地、生産拠点となっている。

 タイの自動車生産台数は多少の波はあるもののほぼ拡大を続け、2010年に乗用車・商用車合わせて年160万台に達し、今や「アジアのデトロイト」と呼ばれている。

 この「アジアのデトロイト」の特徴は、第1に自動車関連産業の集積が進んでいることにある。言わば裾野の広い産業構造で、これはタイ政府が完成車の輸入関税を高くすることで国内生産を優遇するとともに、国内での部品調達率を引き上げるなどの規制により国内サプライヤーの育成を進めたためだ。

 第2は日系(富士重工業㈱、ダイハツ工業㈱は未進出)を含め完成車メーカーがタイを輸出の拠点と考え、今やタイから世界各国に輸出されていること。第3は日系メーカーが国内販売、生産、輸出において90%以上のシェアを持っていることが挙げられる。

 三菱自動車ラムチャバン工場を訪問した。約50年前タイへ進出し、組織変遷しながら1987年現法人となり、本格生産を開始した。最近のアセアン向けの急伸を受け、2010年には過去最高の約20万台を生産し、その約80%を世界140カ国以上に輸出している。

 加えて小型、低価格、低燃費の世界戦略車「グローバルスモール」の来春3月市場投入に向け工場(初期生産能力は年15万台)を建設中。従業員も約5600人へ増員するなど着々と計画が進行中だ。小早川義明タイ法人上級副社長は「現在工場はフル稼働中。しかし、世界経済、為替が不透明な中、身を引き締めていく」と慎重だ。また、「現在のサプライヤーの品質は良好だが、今後はタイ以外にも安定供給が図れ、開発力のある日系サプライヤーの進出を」と期待する。

 自動車プレス部品製造のヒルタ工業(笠岡市)は三菱自動車から約20㎞のところに2008年立地し、生産能力を早くも約2倍に増強中。建物はすでに完成し、大型プレス(600t)などを今後増設し、近々の稼働を目指している。三菱のグローバルスモールカーやマツダとフォードの合弁企業、フタバ産業、ブリヂストンなどの部品メーカーへの対応強化を図るためのもの。現在、休日出勤のフル稼働で増収増益基調。采女強タイ法人社長は「問題は人の確保だ。人が集まらないのでさらに自動化を進める必要がある」と右肩上がりの中にも大きな課題を抱えている様子。

 新興工業㈱(総社市)は合弁で1988年タイへ進出。今年3月にはすでに第3工場が完成、稼働した。従業員600人で自動車部品の機械加工が中心。前田勝之常務は「スズキなどの下請けも今後どんどんタイに出てくる。従業員はやはり集まらず、ロボットの導入を図っている。技術で生き残るしかない」と危機感をうかがわせる。

 駆動部品やシャシー部品の機械加工を手掛ける水島機工㈱(倉敷市)も、フォード、スズキに隣接し本年度のオープンを目指し工場建設中。

 双葉電機㈱(岡山市)と㈱ブイエス(同)も現在工場建設中だ。自動車部品メーカー向け製造ラインなどのセットメーカーで、日系企業の仕事を狙っての進出。「タイは自動車関連産業が集積している。出て行けば仕事はある。技術とコストの勝負」と進出プロジェクトの提案者でもある中村康治タイ法人社長はタイでの成功に自信を見せる。

 県内の機械設計のトップ、興南設計㈱(倉敷市)もすでに貸事務所で事業開始。10月末には本格的な事務所をオープンする予定。森彰社長は「トヨタ・三菱系の仕事が多く、しかも海外向け。タイに進出すれば仕事はいくらでもある」と語り、ものづくり企業とともに海外での事業拡大を図る戦略だ。

 朝日税理士法人岡山のグループ会社は、2007年に進出。鎌田浩志タイ法人社長ら11人でタイ進出を支援。コンサルタントの中島美香さんは「日本人2人では対応しきれない多忙さ。現在はタイの市場を狙った進出の相談とタイでの労働力確保の相談が急増中」と言う。

 みずほコーポレート銀行、東京センチュリーリースの話を総合すると、タイには約60の多様な工業団地があり、国内幹線道がすでに整備され、複数の深海港を有するなど物流の面でも優れている。また、タイ人は勤勉で性格も良く、停電もない。法人税が通常30%、広範囲なFTA、さらには電気・電子、自動車産業を中心としたものづくり企業が集積しており、投資環境として東南アジアの国々の中でも抜群のようである。

 日系企業の最近のタイ投資委員会(BOI)への認可申請は毎年300件前後であるが、2010年は364件、そして東日本大震災、超円高時代の到来のためか2011年は前年比70%増と急増中である。

 タイ自動車研究所は2011年の自動車生産台数は前年比10%増の180万台、2015年には250万台と予測しており、アセアンの自動車の生産・輸出拠点として世界の自動車生産台数ベスト10入りは確実視されている。その中で、完成車メーカーの拡充と新規進出、サプライヤーおよびものづくりを支援するサービス産業などの進出が一気に加速する雰囲気だが、用地と人の確保が大きな課題としてクローズアップされつつある。

 タイ進出に当たり、安い労働力の確保が今後最大の課題となりそうである。失業率は0.5%で推移しており、まさに完全雇用の状況である。「今後2年間で自動車産業だけで約10万人が不足する」「面接し、その場で契約しなければよそに持っていかれる」と非常に厳しい声を聞いた。

 また、タイの労働者の給料は安定的に年5%増が続いており、現在月2万円弱である。東京センチュリーリースタイ法人の田中邦明社長によれば「今年8月に誕生したインラック政権は公約通り、最低賃金を約40%増の全国一律300バーツ(約800円)に引き上げる動きをしているが、いろいろと憶測が飛んでおり、どうなるか先が見えない」とのこと。いずれにしても安い労働力の確保が急速に困難になることが予想され、人に替わりロボットなどの導入による自動化、省力化が一気に進む分岐点と言える時を迎えたようだ。

 1ドル76円台の超円高時代、日本のものづくり企業の海外進出が一段と加速する中で、タイがその受け皿として脚光を浴びている現実を目の当たりにし、トマトリースの鳥井社長は「県内企業のタイ進出の動機はそれぞれ違うが、各社とも勢いを感じた。タイでの銀行の預貸率は100%を超えている。要請があればリースはもちろん、情報提供、ビジネス支援など進出企業の後押しを充実させたい」と語った。

 さて岡山県はどうなるのか。岡山県の調べで2010年末タイに進出している企業は21社。今回の訪問で新たに進出を模索しているサプライヤー数社の動きをキャッチした。県内の家電・自動車・農機具・造船などの裾野の広いものづくり企業のピラミッドが崩れ始めているような気がしてならない。「岡山に残るリスクよりタイ進出リスクの方が少ない?」という時代の到来であり、逆に「じっとしていても技術があれば仕事がくる」という時代の終えんかもしれない。この円高を逆手に、自社の経営基盤を固めながら海外進出を模索する中小企業の強さを感じた訪問でもあった。

 最後にトマトリースや訪問企業、資料提供等をいただいた岡山県産業労働部、OIBAなどの協力に感謝したい。

 帰国後の大洪水でタイ経済は激変している。訪問企業に直接被害はまだないが、当面は影響が避けられない。早急な復旧で再び訪問時の活況を取り戻すことを期待している。

本誌:2011年10.31号 15ページ

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