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奇跡の生還

 チリの地下鉱山で起きた落盤事故は全員が家族の元へ生還するというまさに奇跡としか思えないハッピーエンドを迎えました。

 8月の事故発生当初、33人の作業員が地底に閉じ込められているというニュースを知って以来、気の弱い私はこの事故に関するニュースからはなるべく目をそむけてきました。とうてい助からないだろうという感じがし、あまりにも痛ましい光景は見たくなかったからです。

 地下700mの蒸し暑く狭くて暗い空間に閉じ込められた人の心境はどんなものだったかは今後インタビューやドキュメンタリーを通して明らかになってくると思いますが、彼らには想像を超えるたくましさ、精神力の強さが備わっていたことは言うまでもないことでしょう。

 私にとって一番の驚きと謎は33人もの男達が長期間狭い場所に閉じ込められていたにも関わらず、和気あいあいとしていた様子がうかがえることです。小さなケンカのひとつやふたつはあったのかもしれませんが、これが日本人の集団だったらきっと相当ひどいことになっていたのではないかと想像されます。

 ウマが合う、合わないで小さなグループができて反発し合う、仕切り屋が出てくる、イジメが起きる、ケンカが始まる、暴力行為がエスカレートする、絶望的な状況の中、食欲不振や下痢で一気に体調を崩す、自殺者が出る、小競り合いから殺人事件もあるかもしれません。

 私など平和な日常生活の中にあってさえ、いつも土足で踏み込んでくる近所の世話焼きおばさんにかなりイライラさせられ、彼女のすることなすことすべてが“余計なお世話、放っておいて”です。

 とてもじゃないけど、自己主張もしながら世話焼きおばさんに歩調を合わせてうまくやっていこうなどという殊勝な気持ちにはなれません。しかし、こうした私の“病気”は多かれ少なかれ日本人に共通した社会病理を反映してのことではないでしょうか。

 どうしたら奇跡の33人のように統率がとれ、しかもギスギスしないでやっていけるのでしょう?日本人の礼儀正しく優しい性格と表裏一体をなす陰湿かつサディスティックな性向をどうしたら改善できるのか、危機管理の側面からもパニック下の日本人の行動様式の解明と人間関係のトレーニングが必要だと思います。

本誌:2010年10.25号 14ページ

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