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プロフェッショナル(中編) ビジネス的環境問題?

 倉敷市出身の棋士(故)大山康晴名人は、将棋の公式タイトル獲得通算80期(歴代一位)という金字塔を打ち立てました。しかし、史上最強の呼び声高い羽生善治名人は七大タイトルを独占した時期もあり、このままいけば2年以内にこの記録を塗り替えてしまいそうです。もちろん、大山名人の時代と現在では、棋戦(タイトル)数も異なり、一概に比較はできないのですが。

 「どうすれば集中力を鍛えられるのですか?」と羽生名人は尋ねられることが多いそうです。彼は著書の中でその問いに対して「集中力だけ取り出して鍛えることはできないから、集中できる環境をつくるべき」と答えています。じつは、経営学の大家ピーター・ドラッカーも、名著『プロフェッショナルの原点』の中で以下のように述べています。

「邪魔を除去する」
 最大の難関は、成果をあげなければならない者をとりまく環境である。経営者がこの点に留意しなければ、彼らを無価値にしているのに等しい。

 思考プロセスも専門性も全く違う2人のプロが、同じことを大切にしています。これは、多くの示唆に富んだ「コンピテンシー(成果を上げる人が共通して持つ行動特性)」と言えるのではないでしょうか。

[集中は環境の整備から生まれる]
 「集中できている」とは、スキルを最も効率的に発揮している状態を指していて、それを創り出すには2つのポイントがあると考えます。第1に身の回りの雑事・雑音を整理すること。つまり、スケジュールと時間管理の概念が不可欠となります。同時に自分自身のルールや優先順位を決めて行動することも大切です。例えば「アポイントメントは必ず先約を優先する」とか、「一定量までの損失やリスクであれば、初期の行動計画を簡単に軌道修正しない」といったことです。自分の決めたルールを守るのは思ったより難しいのですが、やり続ければ必ず力となります。何故ならば、目先の勝ち(利益)に囚われず言動がぶれない人や企業は、長期的に信頼を得られますし、何よりやり通している自分に自信が持てるのです。この「自信」こそが集中に大切な要素なのです。

 第2に「集中するべき対象(=仕事)」が嫌いな内容では、集中を維持するのが難しいということです。個人事業者でも、仕事を選べる人は少ないはずです。ましてや、会社員は仕事について選択の余地があまりなく、与えられたことを日々やらざるを得ません。望まない職種や、先が見えない業務内容ばかりでは、初めから集中困難な環境に放り込まれたこととなり、いろんな意味で非効率です。よって、組織としては、適材適所の人材配置やキャリアプランの提示を怠らず、皆の集中力を維持させることが肝要です。また、個人単位で考えれば、好きな仕事こそ死にものぐるいで成果を創り出し、自分の手から放れないようにしなければなりません。集中できない仕事が増えてくると、結果が伴わず、益々集中できない仕事が増えるという悪循環に陥ってしまうからです。

[次代のプロを産む環境]
 ドラッカーは同書でこうも述べています。「成果を上げるためには、最も重要なこと一つだけに集中して取り組むことだ。困難な仕事をやりとげる者の秘訣であり、とても効率的である。じつは成果が出ない人間の方が、はるかに働いている。」

 自分もほったらかしにしておいて「ずいぶん前に言ったのにできていない」とか、思い出したように「あー、あの件どうなった?」と繰り返す上司の下では、仕事全般に集中できず注意力散漫が常態化するのです。また、環境整備はおろか自己管理もままならない気分屋の指示に従わなくてはならないのですから、自然とモチベーションも下がるでしょう。ストレスを溜め続け、雑事に忙殺されるような職場環境では、プロ輩出が難しいことは言うまでもありません。

筒井徹也(鉄じぃ)
有限会社 エヌティ・クリエイト チーフプランナー
産業カウンセラー

本誌:2010年4.12号 22ページ

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