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山岳観光と環境行政

 昨年の晩秋、何十年ぶりかで信州・上高地に出掛けました。雪をかぶった穂高の山々を背景に軽やかに流れていく梓川の静謐。天国とはきっとこんな場所に違いありません。

 ところが松本からのアクセスは電車とバスを乗り継ぐのがメーンで、自家用車は上高地のはるか手前にある駐車場に置いてシャトルバスに乗り換えなくてはなりません。松本からはバスで往復4400円!日本一の絶景にたどり着くには交通費も相当なものです。

 上高地にはバス、タクシー以外の車が進入できないのは、それはそれで理解できます。また、障害者特例もあるようです。しかし、観光客がひしめいている河童橋からさらに奥へ遊歩道をたどろうとすると、もはや自分の足で歩くしかありません。

 環境省はせめて電動カートを用意してお年寄りや足腰の悪い人でも上高地の大自然の息吹を思う存分味わってもらえるよう工夫できないのかと思います。

 実は梓川沿いには横尾山荘あたりまで立派な道路があり、環境省職員やコネのある人、業者は堂々と車を乗り入れています。あまりいい感じはしません。大自然は万人のものであるし、大自然に直に触れる権利はすべての人にあることが忘れられているのではという気がします。

 何かにつけ規制と特権がセットになった日本に比べ、山岳観光の先進地域であるヨーロッパやカナダでは、自然のもっとも奥深い地点、可能なかぎり高い地点までだれもが簡単に行くことができるだけのインフラを整備しています。

 ヨーロッパ最高峰のモンブランの観光ポイント、エギュ・デュ・ミディの標高は富士山より高い3800m。しかし、ふもとのシャモニーから空中ケーブルカーに乗ればわずか20分で到着します。

 ヨーロッパの山岳観光地が素晴らしいのは、そういう高い場所でもちゃんとしたレストランがあり料理の値段も手ごろ、暖房のきいたトイレは水洗で快適このうえありません。足の悪い人でもお年寄りでも、夏冬問わず4000mの高みからヨーロッパアルプスの壮大な光景を堪能できます。

 ひるがえって我が富士山。登山客が出す糞尿をそのまま垂れ流している山を世界“文化”遺産に指定しろと言ってもそれは無理な相談です。

本誌:2010年3.15号 14ページ

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