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北枕考

 92歳の父のために介護用品レンタル会社から最新式の電動ベッドを借りることにしました。

 あまり広くない8畳の部屋にベッドをどのように配置すればテレビが見やすく、窓の外の景色もよく見え、介護もしやすいかいろいろ考えた結果、古いベッドを置いていた場所に“北枕”で設置するのがベストということになりました。

 ところが、抹香臭いことが大嫌いな大正デモクラシー世代の父は北枕など気にしないだろうと高をくくっていたら、模様替えが済んだ部屋を見て開口一番「北枕じゃないか」と不機嫌になりました。

 “南枕”にしようにも、いったん据え付けた鉄のかたまりの電動ベッドは重くて私1人では動かすことができません。

 そもそも北枕がなぜ不都合なのか子どものころから疑問に思っていた私は30年ほど前、北枕の実験をしてみたことがあります。

 その結果、このタブーにもちゃんと理由があることが分かりました。頭を北にするということは部屋の南面を見ながら寝ることになるのですが、朝になって南の窓から差し込む太陽が目を直撃し眩しくて寝ていられません。実に不愉快です。

 そういえばどこのホテルでもベッドは窓に平行に置かれ、目線は自然と向かいの壁の絵とテレビの方に行くようになっていますね。

 その後、父はと言えばデリカシーに欠けた息子の所業にショックを受けたのかちょっと落ち込んでいる様子。ベッドの上で頭をあっちにやったりこっちにやったり苦労しています。

 よかれと思ってした模様替えが裏目に出て不吉なことが起きたらそれこそ取り返しがつかないので近々“南枕”に戻すことにし、寝たままの姿勢でテレビがちょうどよく見える位置に大画面の壁掛けテレビを設置することにしました。

本誌:2009年秋季特別号 16ページ

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