WEB VISION OKAYAMA

連載記事

それが一番危ない

 パーキンソン病と認知症で寝たきりになってしまった母。それでも息子(私のこと)による介護が適切に行われているせいか、内臓にも循環器にも、これといった病変はなく日々平穏に過ごしています。いや、正確に言えば過ごしているように見えます。

 気管切開をして声を失った母は言葉による意志疎通がほとんどできず、母がいつも一体何を考え、どんなことを気にしながら過ごしているのか、私には想像もつきません。

 声を失う前、退職してすでに30年にもなるというのに、自分をまだ現役の教師と思い込んで、「子供らが待っとる。学校へ行かなくちゃ」とあせってベッドから起き上がろうとしていた母。

 家計を預かる主婦として、お金の苦労もしてきた母が、今でも同じ悩みを抱えたままになっているとしたら哀れです。

 ところが今日、そんな私の危惧を裏付けるような“事件”がありました。それは毎日のように来てくれる訪問看護師さんのひとことがきっかけでした。「お母さんは私たちが税金とか、お金の話をしている時は目をぱっちり開けて話をよく聞いておられますよ」。

 本当かなと思いつつ母の耳元で、「お母さん、今年も確定申告をして税金を取り戻してあげたよ」とささやいたとたん、パッと目が開きました。

 すかさず看護師さんが「息子さんがしっかり年金の管理をしてくれているから大丈夫ですよ」と話し掛けたら、もう何カ月も無表情だった母が久しぶりにニコッと微笑み、口をモゴモゴさせながら何か言いました。

 看護師さんには意味不明だったようですが、息子の私には母の言葉が手にとるように分かりました。「それが一番危ない!」と言ったに決まっています。

本誌:2008年3.31号 14ページ

PAGETOP