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デスクランプ

 神戸の大地震を経験した知り合いが、震災から、全て形のあるものは壊れることが身にしみて分かった、としみじみ言っていました。だからモノが壊れることに執着しなくなったという意味のようです。

 しかし、私には、モノは最初の姿のままいつまでもそこにあってほしいという願望が強く、些細なことでも原形が損なわれるとしばらくの間落ち込みます。

 先日、岡山市湊にデザイン事務所を構える友人を訪ねた時、友人が昔アメリカで購入したというデスクスタンドが目に入りました。

 子どものように「それが欲しい、ちょうだい!」と言うと、これはダメと言いつつも、倉庫から自在アームの先端に20ワットのほのかなランプが灯る素敵なスタンドを出してきてくれました。かなりの年代物のようです。

 ところが、アルミ製のシェードが少し動くのでネジをしっかり締めようとしたら「パキン」という音がして碍子でできた小さなソケットが割れてしまいました。

 「今まで完璧な状態で倉庫に何十年も眠っていたスタンドなのに、久しぶりに日の目を見たとたん壊れてしまった」と嘆く私に友人は「灯は点くので問題なし」と気にもとめていない様子。

 最近、オルセー美術館に侵入した少年がモネの名画「アルジャントゥイユの橋」を10㎝程切り裂いた事件についても友人は「人類の歴史7千年から見れば大したことはない、修復技術の向上にはいいチャンス」と涼しい顔をしていました。

 「完璧なものは全然魅力がない」とはさすがモノをつくっては壊すデザイナーらしい卓見です。

 またひとつ、歴史を刻んだくだんのランプは母の枕元に置きました。明るい天井灯に代わって深夜、母の痰を取ってあげる時そっと母の喉元を照らしています。

本誌:2007年10.22号 12ページ

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