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巻頭特集吹屋・鉄の径を世界遺産に

豪商・西江家17代の西江夫妻ら立ち上がる

  • 西江晃治氏(左)と薫子氏

 江戸から明治、昭和にかけて銅とベンガラの町として栄えた高梁市成羽町の吹屋地区一帯の産業遺産群を世界遺産として登録しよう―。こんな動きが吹屋地区で盛り上がってきた。これを受けて、地元・高梁市では5月に同地区の代表的遺産である吉岡銅山跡などを国に「産業遺産」として認めるよう認定申請、9月下旬には記念行事を計画している。一方、県でも備中県民局の音頭取りで、同地区を含めた広域観光コース「鉄の径(みち)」づくりを進めている。夢の世界遺産登録への道程はまだまだ遠いかもしれないが、地元の期待は徐々に高まりつつある。

 閑谷学校・農業遺跡にはちょっと遅れをとりましたが…

 高梁市成羽町の吹屋地区は、標高が450m前後の中国山地の山あいに広がっている。昔、銅山とベンガラ(弁柄)の町として栄えたところだ。赤胴色の石州瓦にベンガラ格子、入母屋造りの豪壮な商家・町屋が栄時の雰囲気を漂わせている。最近、観光客数が急増している。地区内の郷土館の今年上半期(1~6月)の入館者数は1万472人と前年同期比64.4%増。ベンガラ館も同9709人と同63.3%増となっている。

 その同地区を産業遺産として世界遺産に登録しようと提唱しているのが、同市成羽町坂本の西江邸(国登録有形文化財)の第17代目、西江晃治・薫子夫妻だ。5年前、地元のラ・フォーレ吹屋で、国際産業遺産保存委員会(TICCIH)事務局長のスチュアート・スミス氏、都市経済評論家の加藤康子(こうこ)氏らを招いて、世界遺産のシンポジウムを開いた。

 スミス氏は英国・産業革命発祥の地のアイアンブリッジ渓谷の産業遺産を保存し世界遺産にした人物。加藤氏は国内外の産業遺産を研究するその道の第1人者で、特に産業遺産を世界遺産にしようという運動を展開している。

 同地区の吉岡銅山は、江戸時代には住友家が生産を請け負い、「西国一」の名声を得るまでになった。明治6年には三菱の岩崎弥太郎が経営に着手、莫大な資本と近代技術を投入し、やがて当時の日本三大銅山の1つに数えられるまでに発展し活況を呈した。

 西江晃治氏は「産業遺産は先人たちの功績、苦労が学べる場。我々はそれらを残し後世に伝える義務がある」と力説する。薫子氏も「私は子供の頃から工場で働く人たちを見てきたが、産業遺産を通して今の日本の発展を支えてきた人たちに関心を持ってほしい」と、文化遺産ではなく産業遺産としての登録を目指す方向。

 世界遺産登録については「英国など海外の関心は、日本が産業発展の礎を築き国力を付けた時期である明治時代の産業遺産群にある。明治の遺産の方が世界遺産に通りやすいのでは」と夫妻。吹屋地区には「本物の精練所跡が残っている。評価も高い」と言うわけ。世界遺産の資格十分というわけだ。
 
 地元の熱意どう盛り上げる!?

 古民家再生や町並み保存と取り組む建築家、楢村徹氏(楢村設計室代表)も「吹屋地区の集落は(石見地区に比べて)規模が大きく立派でレベルも高い。新見、成羽、勝山と関連がついていけばよいものになると思う。そこで大事なのは地元としての盛り上がりだ」と話す。

 伝統的町並み再生で高梁市を何度も訪問している明治大学理工学部教授の小林正美氏も「松山城や吹屋地区などをセットにして世界遺産を狙えるのでは」と提言したと言う。

 しかし、周囲はやはり慎重な姿勢が目立つ。

 秋岡毅高梁市長は昨年6月定例会で「県や文化庁と連絡を密にし世界遺産の登録申請に向けスタートするかどうか検討したい」と世界遺産登録には慎重だが、同地区を新たに産業遺産として位置づけ、活性化に向け動き出した。

 高梁市は産業遺産の認定申請

 高梁市は吉岡銅山跡、吹屋ふるさと村などを産業遺産として経済産業省に認定申請した。

 同省では9月4日に吉岡銅山跡の現地調査を実施。その後、加藤氏を含めた有識者らで組織する「産業遺産活用委員会」での協議を経て10月に認定が決定。11月のシンポジウムで公表する予定。

 一方、地元では官民で実行委員会を組織し、9月29、30の両日、現地で銅山開山1200年、ベンガラ製造300年などの吹屋周年記念まつりを開催する。30日には銅山跡に観光ガイドが常駐する。

 高梁市では「今年は吹屋にとって節目の年でもあり認定申請した。産業遺産として貴重な施設なので保存・継承していきたい」(商工観光課)と話す。

 そのほか、昨年7月には岡山県備中県民局の音頭取りにより産学官で「備中地域広域観光振興協議会」(森喬会長)が組織された。同協議会では「鉄の径(みち)」の旅行商品化を進めている。

 鉄の径は、古代たたら製鉄を復元した新見市の炉跡、ベンガラの吹屋、古代たたら製鉄の総社市、倉敷市のJFEスチール(株)の製鉄所など鉄をテーマに結ぶコース。

 10月21、22の両日にモニターツアーを実施する予定で、9月中旬に団塊世代を対象に参加者20人を募集する。

 同県民局では「観光地としてメジャーな倉敷を玄関口に観光客を高梁・吹屋、新見など北部に誘導したい」(池上賢太郎局長)としている。

 こうして動き出した世界遺産に向けた活性化作戦だが、関係者が一致して上げる課題はどう地元を挙げて盛り上げていくかということ。これが今後の大きなカギとなりそうだ。

「活性化へのコメント」

 高梁市長
 秋岡毅氏

 産業遺産認定で活性化

 吹屋吉岡銅山の開山1200年を迎えた本年、その銅山跡が産業遺産と認定されることを心より望んでいます。吹屋の町並みに加え、精練所跡、選鉱場跡、坑道などが認定されれば、地域の活性化に大いに寄与すると期待しています。時代がハイテンポで移りゆく中で、古いものが見直されています。人間的温もりや現代に通ずる心が息づいているからです。

 吹屋はもとより日本の産業発展を長く支えた産業史の1ページを多くの方に認識してもらいたいと考えます。

 そして、小さくともきらりと光る個性と魅力の創造を図っていきたいと思います。


 岡山県備中県民局長
 池上賢太郎氏

 広域観光に組み込んで

 吹屋地区は観光資源としてすごいものを持っている。岡山市や倉敷市などの観光地は既に多くの観光客が訪れているが、吹屋はこれから伸びる観光地だ。県民局では「鉄の径(みち)」の旅行商品化を進め、備中地域の広域観光の一環として吹屋地区の観光振興に取り組んでいきたいと思う。

 吹屋ふるさと村の町並み保存地区を東西に走る県道高梁坂本線(現道)は、週末や観光時期に歩行者と車両で混雑するため、14年度から吹屋バイパスを整備中。500m区間の工事が完成し、今年6月に供用開始したが、残る800m区間も順次整備を進めたい。


 吉備国際大学文化財学部准教授
 小西伸彦氏

 銅山跡の特徴残す遺産

 吉岡銅山跡は、産業遺産として第1級のものだと思う。歴史は古いが、銅山の中では大手資本が入り近代化も早かった。また、スケールが大きく、生産量も多かったと予想される。銅を精錬した後の廃棄物である「かなみ」で造った煉瓦が水路などに使われており、それが現在も残っている。銅山跡の特徴を明確に表わしている遺産だ。

 今まで本格的な学術調査がなされていなかったが、私は産業考古学の立場から、今後吉岡銅山跡の調査研究を進めたいと思う。それだけの価値は十分ある。これは地元の大学としてぜひ取り組むべきだ。

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